第33回テーマ館「天使」


選ばれし者 三城智人 [2000/06/21 15:14:41]


 聞こえる。
 この鼓動は俺の中にいる者の息づく音。あの人から預かった、あの人の大切な子。
 こんな事、現実にはありえない事。だが、あの人の正体を知れば、俺は納得してしまう。
 すでに、あの人の事を知ってしまったのだ。疑う事はしない。俺はただ、あの人から預かった
この子を、天使となるべき者を俺の中で育て、守るだけ。
 天使となるべき者を育てるのに、身体は関係ない。育てるべき必要なものは、心。
 俺がどうして選ばれたのかは判らない。ただ、俺だけではなく、他にもいるらしい。会った事
はないが、俺と似たような人物達だと、あの人は言っていた。
 ああ、もうすぐだ。もうすぐで、あの人に会える。
 毎月、あの人はちゃんと会いに来てくれる。あの美しいひと。
 あの人が会いに来るのは俺の中の天使になるべき者。それでも、俺はあの人の姿を見れるから
満足だ。
 ああ、あの人だ。あの人の羽音が聞こえる。
「お元気ですか?」
「はい。この子も順調です。アルジュ様」
 アルジュ様。相変わらず、綺麗な方だ。
「鼓動が聞こえる程まで、成長しましたか。終わりですね」
「え?」
 胸の辺りが熱い。だが、その熱さも、何故か心地よい。気持ちいい感覚だ。
「さあ、おいでなさい。新しい子よ」
 心地よい感覚のまま、俺の意識は、薄れていった。
「さあ、いきましょう」
「はい」
 身体が、おかしい? 手が、小さい。
 下には、俺の身体。そして、今の身体は?
「あなたの新しい名前は、アルです。よろしいですね?」
「はい」
 アルジュ様と同じ名前だ。嬉しい。
 この人についていったら、もう元には戻れないだろう。だが、いいんだ。なぜなら、
 この国は、世界は、もう滅びているのだから。