第76回テーマ館「朝起きたら…」



朝起きると cinos [2010/02/22 05:49:32]


 朝起きたら虫になっていたという話はよく聞くが、
俺は朝起きたら女になっていた。
 それに気付いたのはトイレに行った時だった。
 この非条理な状況に動じることなく、俺は風呂場で全裸になると
自分の身体を鏡に映してじっくりと観察した。
 観察に満足すると次に何をしようか考えた。
 女風呂に行ってみるか。
 それよりもスイミングクラブの更衣室の方が良さそうだ。
 若い姉ちゃんがいっぱいだろうし。
 街でうろついてお金のありそうな男におごらせるのもいい。
 とにかく街に出よう。
 その前にとりあえず着替えだ。
 風呂場を出ると、姉の部屋に行って、衣装棚から最もセクシーな下着を選んではく。
 鏡に映してポーズをとると、なかなかいけそうだ。
 さらにセクシーな服も借りる。
 化粧にも挑戦しようとした時、携帯が鳴った。
 友達の豪だった。「おはよう、どうした」
 「お、おい、お前、どうだ。な、なんか変わったことないか」
 豪はすっかり動転しているようだった。
 もしかして。
 「俺、朝起きたら女になってた」
 「やっぱりお前もか。俺も、朝起きて鏡見て驚いた。
ちなみに父親も女になってた」
 「なんだって。ちょっと待て」
 これは俺や豪だけに起きたのではないのかもしれない。
 テレビをつけてみると、緊急ニュースをやっていた。
 それによると朝起きると、世界中の男性が女性に変わったということだった。
時差があるところはやはり時差によって、朝起きると変わるらしい。
徹夜して寝なかった人も、朝になってふと気がつくと女になっていたそうだ。
男四人で徹夜麻雀していて朝になったら、
みんな女になっていたいうのも笑える話だ。
 いや、笑えない話だが。
 さて男が女になった結果、生殖が最大の問題になるという。
 そりゃ、そうだ。
 男と女がいて子どもが生まれるのに、女しかいないのなら人間は子孫を残せない。
 ということで、精子銀行に女性が殺到しているということだ。
 精子も高騰していているらしい。
 しかし銀行の精子にも限界がある。
 やがては人間は子孫を残せずに、滅亡していくのかもしれない。
 また男に戻れたら良いのだが。
 こんな中でもしかして自分だけが男に戻れたとしたら、
ウハウハハーレム状態なのだが。

 あれから30年たったんだけど、私は男に戻ることはなかった。
 すっかり女の生活に慣れたわ。
 もちろん世界中の女になった男が男に戻ることもなかったの。
 精子銀行の精子はつきてしまって、生まれてきた子どもたちも
みんな女だったの。
 クローン人間も現段階ではまだ成功していないし。
 人類はこの危機に際してとんでもない選択をしたの。
 猿の精子を使ったの。
 猿の精子に手を加えて、人工授精して子どもを生むことにしたの。
 その結果、町には猿人間があふれたわ。

 そして地球は猿の惑星になったのよ。


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