第67回テーマ館「誕生日」



男たちの誕生日(上) ジャージ [2007/10/29 01:30:17]


 俺は自分の誕生日が嫌いだ。
 俺が8歳の誕生日の時、刑事だった親父が殺された。
 親父が捕まえた男が、出所後に逆恨みで殺したのだ。
 帰宅途中に、その男の銃で撃たれた親父の手には、俺のプレゼントが握られていた。
 それ以来、俺はこの日が嫌いになり、
 そして、俺は刑事になった。
 親父に代わって、正義を貫く。
 だが、それは憎しみが憎しみを呼ぶだけだった・・・。

『エリーモーラント・ビルに立て篭もった犯人は、複数いる模様です。』
『・・・立て篭もりの犯人グループの主犯格と思われる男から、午後10時に我々取材陣
 の前に姿をあらわすと声明をだしました。』
 テレビ局はどこも同じ事件を取り上げ、リアルタイムに報道を続けていた。
 ロサンゼルスのビジネス街に白昼堂々と武器を持ち、立て篭もった男達。事件発生から
すでに6時間が経過していた。
 事件現場には警官隊が包囲し、すでにSWATも突入の準備を完了している。
「ロス市警に文句を言いたいところだが、大丈夫か?ニラコス?」
 FBI捜査官であり、現場指揮を執るバック・ジャウアーはコーヒーを差し出しながら
言った。
 エリーモーラント・ビルの向かい側のビルの一画が指令本部となり、事件に関するさま
ざまな情報が無線等で飛び込んでくる。そこにロス市警ベテラン刑事のニコラス・グレイ
ズがいた。
「バック!ヤツが元・デルタ(デルタフォース・米国陸軍特殊部隊)の隊員なんて聞いて
 ないぞ!」
「極秘情報なんだ。」
「ペンタゴン(米国国防省)が絡むと、それか!!」
 ニコラスは冷静さを抑えれなかった。なぜなら、彼の娘・ジェリーが人質となっていた
からだ。

 話は5日前にさかのぼる。
 連続誘拐・殺人を繰り返し、全米を震わせた男がロス市警によって逮捕された。FBI
に身柄を引き渡すまで、ニコラスはその男の取調べをしていた。
「若い頃のあんたは正義感に溢れてただろうよ。”父親の無念を晴らす”?憎しみにも似
た正義感をふりかざしてあんたは過ちを犯してしまった。一件の誤認逮捕だ。まったく
の無実の人を凶悪殺人犯としてまつりあげてしまった。オレのたったひとりの肉親の姉
をだ。」
 その男は、ニコラスが刑事となって初めて逮捕した女性の弟であり、彼はニコラスを憎
み犯罪を繰り返していた。そして・・・。
「娘さんに連絡してみな。まだ電話に出るといいな。」
 男は翌日、FBIに身柄を引き渡す前に脱走。ロス市警とFBIは男とニコラスの娘・
ジェリーの行方を捜索したが見つけることができなかった。
 男とジェリーの行方が明らかになったのは、皮肉にも、この事件発生である。

「連続殺人事件の容疑者・アンドレー・ウェルソン。10年前の湾岸戦争では名誉戦傷章
 と銀星章を受賞している。その後に除隊。」
「で、俺がそいつの姉を逮捕し、自殺に追いやったからヤツが狂ったか。・・・バック、
 ヤツについてペンタゴンは?」
「無論、除隊しているからノータッチとはなっているが、SWATの1グループに軍の特
 殊部隊を編入させている。」
「つまり・・・ヤツ以外も軍関係者か?もちろん、リストも見せてくれるだろ?」
 ニコラスの要望に、バックは黙って応える。
 差し出された数枚のレポート用紙。その全てに写真が添付されてあった。国防省からの
情報資料であった。
「全員・元軍人か?」
「ああ、主に湾岸戦争とソマリア内戦従事者だ。」
「・・・ヤツは何がしたいんだ?」
 ニコラスの誤認逮捕からはじまり、今回の元・軍人による立て篭もり事件。ニコラスに
はそれが理解できなかった。

 午後10時。声明通り、男・アンドレーはビルの屋上に姿を現した。
『こちら、狙撃A班。目標を確認したが、人質がいる!』
 本部の無線に飛び込む。人質・・・ジュリーなのか?ニコラスは無線の情報にかじりつ
いた。
『20歳ぐらいの若い女性と一緒だ!』
「狙撃はするな!指示あるまでヤツをマークしろ!」
 バックは狙撃班にそう指示をした。
 民間の放送には、屋上にいる男と女性の姿が映しだされている。
「ジェリー!!」
 ニコラスはテレビに映し出された娘の姿を見ると大声をあげた。

『犯人の1人が女性を盾に出てきました!』
『犯人です!!人質の1人が何かをもっています!』
『女性の手に、メッセージボードが持たされています・・・〖ロス市警のニコラス刑事を
 屋上へご招待〗と書かれています!!』
 各テレビ局のヘリのレポーターが我先にと状況を伝える。
「ニコラス・・・」
 大声を上げた後、黙ってテレビを見ているニコラスにバックがささやく。
「大丈夫だ。ヤツが望んでいるなら、俺は行く。」
「殺されるぞ!」
「娘をあんな風にされて、だまっている父親がいるか!・・・俺が殺されたくなければ、
 アンタはアンタの仕事をしてくれ!」
 ニコラスは胸から銃を取り出し、弾を確認すると、黙って指令本部からでていった。そ
の後ろ姿を見送りながら、バックは無線をとった。
「各班に通達。犯人の要望どうり、ロス市警のニコラス刑事が現場屋上へ向かう。犯人グ
 ループの動きに注意しろ!」

                                     つづく

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