第67回テーマ館「誕生日」



男たちの誕生日 (中) ジャージ [2007/10/31 22:28:36]


 午後10時15分 エリーモーラント・ビル前

 立て篭もり犯を警戒する警官隊と、事件の全貌を伝える為に群がる報道陣達の中を、ニ
コラスは憎しみと、怒りの表情でビルの屋上を見つめながら歩いていた。
「ニコラス刑事ですね?!」
「犯人は、あなたとどんな関係なのですか?!」
 獲物に食らいつくハイエナのように、レポーター達がニコラスを取り囲む。だが、彼は
どのレポーターにも答えることなく、ビルへと向かう。
「取材は控えて!!・・・おい!ニコラス!」
 聞きなれた男の声が、ニコラスの歩みを止めた。SWAT(スワット・銃器で武装した
特殊な警官隊チーム)の指揮官・グレック・ジャクソンだった。
「本当に奴らのところへ行く気か?」
「ああ、娘を助けに行く。」
「奴らの挑発に乗るな!お前らしくないぞ?!」
 バックと同じ、グレックもビルの屋上へ行くことを反対していた。
「そうか?じゃぁ、俺は家でビールでも飲みながら、レッドソックス戦でも観戦していろ
 というのか?!娘が人質になっていても?!」
「落ち着け、ニコラス・・・」
 2人の間に、もう1人男、交渉人のマルダー・エデンが人の波を押しのけ、あわてて
やってきた。
「マルダー、お前も俺を止めに来たか?!」
「相変わらずの、分からず屋だな。・・・ヤツらからだ。」
 マルダーは持っていた携帯電話をニコラスに渡した。携帯のやり取りは指令本部にも聞
こえるようになっている。
「ハッピバースディ、ニコラス刑事。・・・どうだ?楽しんでいるか?」
 電話の相手は、5日前、取調べをしたアンドレー・ウェルソンだった。
「俺は、そういう冗談は嫌いでね!何がしたいだ?!お前は何がしたいんだ?!」
「何がしたい?・・・ただ偉大なニコラス刑事さんのお誕生日をお祝いしたいだけさ。」
「それはありがたいね。・・・人質と娘を放せ!」
「焦るなよ。・・・そうそう、さっき君の『お友達』が慌てて来たみたいだ。邪魔だった
 から、帰ってもらうよ。」
 電話は途切れた。
 と、同時にビル中央の窓が何枚か開き、そこから何かが落ちてきた。人のようにもみえ
る・・・。
「おい!SWATだ!!SWAT達がころされてる!!」
 何者かが叫んだ。その声を聞き、グレックは慌てて無線を取った。
「チャーリー1、チャーリー1、応答しろ!」
「グレック、突入の指示をだしたのか?!」
「ちがう!奴らが勝手に・・・」
「SWATに化けた、軍の特殊部隊だろ!」
 グレックの無線に応答する者はいなかった。ビルから落とされたのはバックの言ってい
た特殊部隊に間違いはなかった。軍の恥部となりかねない立て篭もり犯を暗殺するため、
彼らは独自に行動したと思われる。
 再び携帯が鳴る。犯人・アンドレーからだった。
「ニコラス。『お友達』はいらない。お前1人で来い。」
 その一言で電話は途絶えた。
「わかったよ。・・・ヤツの狙いは、やはり俺なんだな。グレック、無線とMP5、あ
 と予備のマガジンをくれ」
「ああ、わかった。・・・ついでにこれも持って行くんだ。」
 もう止めても無駄だと堪忍したグレックは、車から予備の無線機と銃器、そして防弾ベ
ストを出した。
「おれからの誕生日プレゼントだ。気をつけて行ってこい。」

 午後10時13分、ビル屋上

「パパは、アンタなんかに負けないから!」
「だと、いいな。」
 屋上の手すりに女性を縛りつけながら、男はそう一言で答えた。女性を縛り付けた後、
そのまわりを白い小箱のようなものをくくりつけ始めた。
「な、なんなの?」
「パーティには、『飾りつけ』が必要だろ?・・・こいつは『コンポジションC4』」
「?」
「プラスチック爆弾さ。」
 その言葉に、女性の表情はさらに青ざめた。
 男が作業をしていると、手元にあった無線から声が発せられる。
『こちらポイント2・・・刑事を確認した。どうするアンドレー?』
 男は手を止め、無線に応答する。
「お前らは手を出すな。大事なお客だ。ヤツから隠れるんだ。ヤツが内部を外に漏らせ
 ば、また『お友達』が来るぜ。」
 男・アンドレーは人質の女性の髪をいやらしい手つきで触りながら行った。女性はこん
なろくでなしに触られる屈辱に耐えあられないと、男に思いっきり唾を吐いた。
『了解』
 女性の唾を手で荒くぬぐい去ると、触っていた髪を強く引っ張りはじめ、怒りがこもっ
た声で再び無線をとった。
「全ユニットに告ぐ、デカに手をだすな!ヤツを屋上まで行かせろ!」
 無線を切ると、険しい表情の女性にアンドレーは行った。
「さすがニコラスの娘だけあって、気が強いな。だが、俺をなめるな!今度やったら、パ
 パが来る前に起爆スイッチを押すぞ!」

                                     つづく

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