第67回テーマ館「誕生日」



ダイヤル110を回せ!2・0〜イエスタディのトゥモローはトゥディ〜 大津庵 [2007/12/01 02:07:56]


通勤途中にコンビニでレッドブルを買う。
ふとレジ後ろの時計に目が留まる。午前5時。
無意識にため息がでた。
ここのところ残業つづきで一日中、眠気に襲われるうえ常に疲労感とイライラが尾をひ
いている。
満員電車にならないうちに出社しなければ・・・ストレスは肌に悪い。ただでさえ、今
年で三十路だというのに。
アヤコはレッドブル片手に駅へと急ぐ。そんなとき上着のポケットで携帯電話が震え
た。
『ハッピーバースデー!また飲みにいこうネ!』と友人からのメール。
これにかぎらず午前0時をすぎてからのおめでとうメールがひっきりなしなのだ。
「ち、またか」アヤコは舌打ちをするや、いらだちを押さえながらドリンクを飲み干
す。
おめでとう??みんな本当にそう思ってるの??あぁ・・・イライラする。
もう考えないようにしよう。今日も何事も無く一生懸命働こう。
誕生日のことなど、頭から振り払ってアヤコは電車の中で今日の会議の予習をはじめ
る。
ようやく会社に到着し、いつもどおりの明るい声で挨拶しながら事務所のドアを開け
た。

その瞬間、老若男女の様々な声が轟いた。
打ち鳴らされるクラッカー。とびかかる色様々な紙テープ。
「おめでとう!」「ハッピーバースデー!」「おはよう&おめでとうございま〜す!」
とオフィスにこれでもかと、ひしめきあった同僚、上司、様々な人々が喜色満面に優し
い言葉を投げかける。あの憧れの先輩までも。
やがて総勢数十名ともいえる人々がハッピーバースデーの歌を合唱しはじめた。
やはりお約束のように打ち合わせしてなかったのであろう「ディア〜」のあとの名前の
部分でグダグダになり、合唱が自然消滅しかけたが、若者たちがなんとか引き継いで歌
いあげた。
後、拍手の嵐。
オギワラ部長がバースデーケーキを持ってやってくる。
「今日はキミの誕生日だろう?みんなこの日のために打ち合わせして早めに出社したん
だよ。ロウソクの数はちょっと省いてあるが、ふふ、さぁ、吹き消してくれたまえ」
大きなケーキを見つめたあと、周囲のみんなの顔を見回すアヤコ。
皆一様に笑顔でアヤコを見つめている。みな心からアヤコの誕生日を祝ってくれている
ようだ。そんなことを思うとこみあげてくるものがあり、とうとうアヤコは泣き出して
しまった。
「みんな・・・」ひとしきり泣いて泣いて、とうとうアヤコの中でなにかがブツッと切
れた。
「わたしの誕生日は昨日だよォォオオ!!バカ野郎ォオオオ!!」アヤコはケーキを部
長の顔面に蹴り飛ばして周囲に殴りかかった。

早朝のオフィス街にパトカーのサイレンが響く。



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