第67回テーマ館「誕生日」



男たちの誕生日 (中A・・・すまん) ジャージ [2007/12/07 01:43:41]


 今日は娘の誕生日だ。
 仕事が終わったら、誕生日プレゼントを買って帰るつもりだった。

 だが、こんな事になるなんて・・・

 午後10時30分 エリーモーラント・ビル とある一室

 証券を取り扱う、いったて平凡なオフィスは現在、異様な雰囲気となっていた。
 スーツ姿のビジネスマン達は、迷彩服の男達に銃をつきつけられ、いつ解放されるの
か、またいつ殺されるのか、不安な時間を過ごしていた。迷彩服の男達――立て篭もり
犯達は、見慣れぬ機械を持ち込み、なにやら作業をしたり、また交代で建物内を巡回した
りしている。
「アンドレー!プレゼントの準備ができた。」
『よし。わかった。』
 無線から男の声が聞こえる。この声の主が、このグループのリーダーであることを人質
となっているビジネスマン達は知っている。
 だが、知っていてなにになる?下には何百と警官たちがいるのに・・・
「ぼ、僕は、もう、我慢できない!」
「ビル、落ち着け!声を出すと奴らに殺されるぞ!」
「娘が待っているんだよ!テイラー!!」
 ビジネスマンの1人がモゾモゾと動き出した。メガネをかけたひ弱そうな男は立ち上が
ると大声をあげた。
「もう何だっていい!僕は家に帰るんだ!!」
「ビル!!」
 同僚の声をも聞かず、ビルと呼ばれるビジネスマンは、出口へ向かって走りだした。
「止まれ!!」
 迷彩服の男が銃をビルに向ける。と同時に別のビジネスマン――テイラーが飛び出し迷彩
服の男を制止する。銃は乱射し、近くの立て篭もり犯や人質に当たる。
「くそ!人質が逃げた!!」
「殺せ!!」
「ここは俺たちの職場だ!殺されるぐらいなら戦おう!!」
 テイラーが叫ぶ。他のビジネスマン達も近くにあったイスやハサミを手にとり、犯人た
ちに立ち向かう。また、その隙に1人、また1人とオフィスから逃げ出す。
「アンドレー!アンドレー!!予想外の事が起きた!!人質たちが・・・くそったれ!」
 無線にむかって報告していた迷彩服の男の1人にテイラーが飛び掛る。

 タタタン!!

 自動小銃の乾いた音が響き渡り、テイラーはその場で倒れた。

 午後10時35分 エリーモーラント・ビル内

 小銃の音、悲鳴が響きわたるビル内。ただことではない事にニコラスも気づいた。
『ニコラス!大丈夫か?!銃声がしたぞ!?』
「俺じゃない。バック。どうなっている?」
『聞きたいのは俺たちのほうだよ!』
 SWATの突入じゃない。もしかすると犯人グループの仲間割れか?ニコラスは手にし
ているサブ・マシンガンを構え、ゆっくりと建物の上層部へと向かう。
「助けてくれ!!」
 ひ弱な男の声がする。と同時に数発の銃声音
「伏せろ!!」
 ニコラスは叫ぶ。銃をもった男達の姿を見つけると、それに向かって銃を乱射。1人に
はあったたらしいが、まだ数名には当たらなかったらしい。
 ニコラスにも銃弾が飛ぶ。
「くそ!7.65mmか!!防弾チョッキなんかダンボールと同じだ。」
 物かげに隠れ、ニコラスは身につけている防弾チョッキを触りながら悪態をついた。
と、そのチョッキのポケットになにやら硬いものが入っていた。取り出してみると何やら
缶のような・・・
「!・・・グレック。いいプレゼントだ!」
 銃声が止む。あのひ弱な男の声もまだ聞こえる。あの声はどうやら人質らしい。
 マガジン(銃の弾丸が装填された箱状のもの)を交換する音、コンバットブーツで階段
を下りてくる音・・・犯人達の物音を確認しつつ、ニコラスはチョッキから『缶』を取り
出し、それに付いている針金のようなもの抜く。
「1人、2人・・・5人か・・・」
 足音でニコラスは犯人達を数える。
「でてこい!人質が死んでもいいのか!!」
「た、助けて!!死にたくない!!」
 あのひ弱な男は捕まったか・・・ニコラスは舌打ちする。・・・まあいい、許してくれ
人質。
「ああ分かった、出ていくよ!・・・ところであんた達は野球すきか?!」
 マガジンを静かに交換しながらニコラスが叫ぶ。
「は?!・・・面白いこと聞くヤツだ!俺はNYヤンキースのファンだ!」
「そうか!そいつは残念だ!」
 そうニコラスが叫ぶと同時に物陰から飛び出し、缶を投げる。
 ニコラスの頭上で『缶』は大きな爆音と光が辺りに広がる。そして、ひるむことなくニ
コラスは再度、サブマシンガンで連射をし、突撃する。
 それは数秒の出来事だった。
 気がつけば辺りには、武装集団たちの死体と、人質がいた。
「レッドソックスのMATUZAKAもビックリな逆転劇だ。」
 ニコラスは人質の体を軽く蹴る。
「僕は死んでいるのか・・・」
 ひ弱な声がする。
「『スタングレネード』だ。死ぬことはないぜ?人質さん」
「娘の誕生日なんだ・・・殺さないで・・・」
「そうか。それはめでたい。俺も今日が誕生日だ。クソったれのな。・・・グレック聞こ
 えるか?!今、人質を1人『保護』した。突入班をまわしてくれ!」
『おい!娘は解放されていないだろ?!』
「今日は俺の誕生日だろ?!もうすこしワガママきいてくれ!」

 午後10時40分 エリーモーラント・ビル 屋上

 無線から耳障りな音と共に、聞き覚えのある男の声が飛び込んできた。
『アンドレー、きこえるか?!』
 その声を聞き、アンドレーは舌うちをする。が、あくまで冷静を装い無線に応じる。
「ああ、よく聞こえるよ。何している?早く来いよ。パーティがはじまるぜ?」
『「主役ぬき」のパーティなんて酷いな。そうそう、お前の友達がここで寝ているよ。
 「アンドレ〜早く来い」って寝言いってるぜ?!』
 アンドレーは屋上のフェンスを乱暴に蹴り、怒りをあらわにしていた。なぜだ!なぜ、
戦争のプロたちが、あんなクソ刑事1人にやられるんだ!!・・・いや、戦場は常に予想
外な事はつきものだ・・・落ち着け、まだオレにはチャンスカードがあるんだ・・・アン
ドレーは独り言をいい、大笑いすると、再度無線をとった。
「よく聞けよ、ニコラス?お前の娘は『ここ』にいるんだ・・・早くその汚い面を見せ
 ろ!!」
『ああ、そうか』
 無線が切れる音と共に、屋上の出入り口にニコラスの姿が現れた。
「パパ!!」
 ニコラスの娘・ジュリーが叫ぶ。と同時にアンドレーは彼女に銃を突きつける。
「早いじゃないか?ニコラス刑事。」
「用件を聞こう。お前の目的はなんだ?!」
 銃を構えながらニコラスは叫ぶ。
「俺への復讐なら、もう十分だろ?!娘を放せ!!」
「パパ!こいつを早く殺して!!」
「アンタに似て、威勢のいい娘だな・・・殺すのが実にもったいない」
 アンドレーは銃口でジュリーの胸を撫でる。
「それ以上、娘に触るな!!」
「怖いパパだ・・・いいか、ニコラス。こんなのは、オレにとってタダのお遊び程度にし
 かならん!わからないだろ?!オレの姉がお前達に殺され、それからオレがくさった人
 生を送ったことを!!」
 無線から声が飛び込む。警官隊からだった。立て篭もり犯は射殺され、人質も無事解放
されたという情報だった。
「もう、終わりだアンドレー。」
「終わりじゃない!!ニコラス!!オレは、オレはオレ達を裏切った、この国に復讐する
 んだ!!」
 アンドレーが何かを叫ぶと同時に、何かを押した。と同時にニコラスがアンドレーに向
かい発砲。

 タタン!

 数発の銃弾でアンドレーはあっけなく倒れた。アンドレーが持っていた銃を遠くへ投げ
すて、ニコラスはジュリーのもとへ駆け寄る。
 プラスチック爆弾を付けられた娘の姿に、ニコラスは涙を浮かべながら、それらを外した。
「すまないジュリー」
 娘を解放すると、そのまま抱きしめた。
「パパ・・・早く逃げて!爆弾が!!」
 娘の声に、ミコラスはハッとし、ジュリーから外したプラスチック爆弾を見た。そうい
えば、アンドレーが倒れる前に何か押していた。起爆装置か?!
「・・・なんだこれ?ただのダンボールじゃないか?」
 爆弾はダミーだった。アンドレーは何がしたかったのか?
 背後から苦し紛れに、アンドレーの声がする。
「オレの・・・勝ちだよ・・・この国と共に・・・」
 ニコラスはアンドレーに駆け寄る。まだ終わっていない。ヤツの目的もまだわからない
「おい!何をした!!」
「・・・最高の・・・『プレゼント』を・・・中国に・・・」
 そういい残し、アンドレーは息絶えた。
「中国?」

 午後11時10分 ワシントンD.C. ホワイトハウス

「こんな時間に何事かね?!」
 休暇中の米国大統領・トム=フランクリンは、やや機嫌悪そうに電話に出た。電話の先
はペンタゴン(米国国防省)からだった。
「緊急事態です!太平洋艦隊の一隻から、弾道ミサイルが発射されました!!」
「ど、どういうことだ?!」
 あまりにも突然の情報に、トムは慌てた。
 弾道ミサイル――発射すると成層圏内で長距離を移動するミサイル。主に核弾頭が搭載さ
れる、国家の最後の切り札である。それがいとも簡単に「何者」かにより発射されてし
まったのだ。
「目標はどこになっている?!」
 大統領の声に、電話はしばし無音になった。が、しばらくして絶望的な回答が戻ってきた。
「中国です。」

                                     つづく


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