『テーマ館』 第23回テーマ「ブロック」


 「大工と壁と死体にまつわるおはなし」   by  ナイリン セイショウ


      「ふぅ・・。もう今日で13年たったな」
        立江老人は大きな声でつぶやいた。
      「なにが13年なんですか、お頭?」
        若者、赤石は問いただした。
      「時効だよ」
      「えっ、お頭、昔なにかやったのですかい?」
      「殺しだよ、コロシ」
        赤石は少し驚いた
      「お頭が人殺したのですか・・またぁ、冗談を」
        冗談だと自分の心に言い聞かせた。
      「本当だよ。13年前の今日、この日にさ、お前位の餓鬼っちょ殺しちまったのさ」
        立江は淡々と喋る。冗談だといいきかせた、赤石の心では葛藤がはじまっていた。
      「ほんとうですか・・?」
        また、問い返した。
      「本当だっていってんだろう」
        立江はちょっと、声を大きくして答えた。
      「・・で、誰をですか?」
      「おぅ、うちで働いていた若いもんをな」
      「どうしてですか?」
      「ひょいな口喧嘩から・・だったかな」
        赤石は殺した動機も確かに覚えてない心無き立江に旋律をおぼえた。
      「で、死体は今どこにかくしてるのです?」
        質問ばかりする自分がすこし嫌になってきた。
      「その時、建てていた家だよ。そこの家の壁の中だよ」
      「そうなんすか・・時効がきてよかったですね」
        赤石は心の葛藤の末、冗談でかえした。すこし、心が晴れたついでに、
      「それは、どこの家なのですかい?」
        赤石はつくり嘲笑いをうかべ、にわか共犯者気分で冗談をたのしむ余裕さえでてきた。
      「たしかな、そこの住人の名前は覚えてないが、○○町二丁目50の351番地のの薄青い家だったかな」
        赤石は刹那に青ざめた。
      「それ、ぼくの家じゃないですか・・」
      「しってたよ・・」
        立江は本当の嘲笑いをみせた。黄ばんだ歯を光らせて。   ―完―

(投稿日:10月29日(木)02時57分04秒)