『テーマ館』 第23回テーマ「ブロック」


 「ブロック」   by  針雷無


      マッチポイントで絶好のトスが上がった。
      これを決めればこのセットはいただきだった。
      和光はレフトから走り込んでジャンプするとバネを活かして思いっ切りスパイクした。
      しかし和光のスパイクは相手の手のひらに吸い付き、次の瞬間、ボールは和光たちのコートに突き刺さった。
      見事なブロックだった。一瞬和光は頭が真っ白になった。動揺したのは和光だけではなかった。
      その後サービスエースが2本続き、和光のチームは第1セットを落とした。

      「あそこはあんなに力んでスパイク打たなくてもよかったぞ、和光」と監督が言った。
      「あそこは楽に相手コートに落としとけば決まってたのに」
      それはないだろ、と和光は心の中で毒づいた。一生懸命やれ、ってのが口癖だろうが。
      「気持ち切り替えて行こうぜ」とキャプテンが言った。

      しかし第1セットの完璧なブロックは第2セットにまで影響を及ぼしていた。
      中学生のバレーなので力差はそれほどなかったのだが、ブロックを嫌った和光の弱気なスパイクは
      ことごとく拾われ、逆に相手の強烈なスパイクを受けることになった。
      さらにかわすつもりのフェイントも読まれて、第2セットは大差で相手に奪われてしまった。
      和光たちのバレーは終わった。

      和光のチームは強いと言われ続けていたが、くじ運もあってこれまで公式戦で入賞したことが
      なかった。この大会が中学生最後の大会だったのだが、やはり勝てなかった。
      和光たちは「無冠の帝王」で終わった。

      「監督、高校行ってバレーしたいんですけど・・・」
      高校受験が近づいて、和光は監督に進路について相談した。
      バレーに打ち込んだ3年間だった。アタッカーとして運動神経には自信があったが、
      勉強はほとんどしていなかったので頭には自信がなかった。
      監督は残念そうな顔をした。「お前はすごいアタッカーだと思うよ。しかしなあ、うちのチームは
      無冠の帝王だからなあ。スポーツで推薦するには、ちょっとなあ・・・」
      高校入試にはスポーツで推薦できるシステムがあり、大会入賞だとポイントがつくらしかった。
      しかし力は持ちながら和光たちのチームは一度も入賞していなかったので、ポイントはつかないのだった。
      「・・・わかりました・・・」和光は自分でやるしかないと悟った。

      あのブロックをはずしていれば、と和光は時々夢を見る。
      あのセットを取っていれば逆に俺たちのペースだったはずなのに・・・。
      ブロック一つで、人生が変わってしまったに違いない

(投稿日:11月01日(日)22時57分25秒)