『テーマ館』 第23回テーマ「ブロック」


 「キエナイ、カベ」   by  kabu



       いつからだろう。下を向いて歩くようになったのは。

       中学の時に、私はクラスの男子達から差別された。
       最近はそれを「いじめ」と呼ぶらしいが、その頃の私はなぜ私ばかりがあんな
      風に下等な扱いを受けねばならないのか、分からなかった。
       プライドは人一倍高かったから、いじめっこの彼らを逆に「下等な人間」だと
      思い込むことで、なんとか学校へは行けていた。
       でも、もしあのとき、私が学校へ行くことを拒否していれば…………

       あの頃の痛みが今、こんなにも深い心の傷となってあらわれることはなかった
      のに。
       私は男性という男性が怖くなった。
       通りを歩くサラリーマンや、車の運転をしている男性。
       登下校中の学生。
       全てが怖い。通行人とただすれ違う時も、私は顔をうつむかせ、彼らに昔の
      いじめっこと同じことを言われるんじゃないかと、びくびくしてしまう。

       昔の私が生きている。
       彼女が、私の心に厚いブロックをかける。
       もういじめっこはいないのに。今の私の周りには、私を差別する人間は誰も
      いないのに…………。
       昔の私が、低く呟く。
      「まだよ、男なんてみんな同じ」
      「みんな私のこと、ぶさいくで性格の悪い女だと思ってるのよ」
      「気を許しちゃだめ。ほら、さっきすれ違った人、振り返って嫌な目で私を見
      てる」
       怖い、怖い、怖い。
       男はみんな、みんな怖い。
       みんな私を傷つける。だからブロックするの。始めから、目を合わせないで
      いれば大丈夫。男はひどいイキモノ。私を傷つけるような奴ばかり。

       やめて。
       やめて、もう、何年前の話だと思ってるの!!
       私だって、人並に恋がしたい。
       なのに、どうしてまだ、昔の私が生きてる………………
       
       心をブロックした方が、自分が傷付かなくて済むから。
       傷付くのが怖い……それは、今の自分も同じ。
       だからブロックするの。自分の心を、外部の不躾(ぶしつけ)な干渉から守る
      ために。

       ブロックを解除する勇気は、今の私にはまだ、ない。

(投稿日:11月03日(火)23時24分03秒)