『テーマ館』 第15回テーマ「しかし・・・」



 ESP人材派遣会社 イトセ    by ひふみ


     世の中には、普通の人々とは違う、特殊な才能を持つ者達が存在する。
      彼らは"E(得体の)S(知れない)P(人々・・・peaple)"ということでESPと呼ばれるが、
      絶対数が少ない、あえてその才能を隠すものがいる、などといった理由で、あまり
      その存在が知られることはなかった。
      だが、ある時、一人の男が彼らの力に注目した。
      一般社会に散らばる能力者達を集め、彼の元に寄せられる依頼をその力で遂行する。
      その噂は口コミで瞬く間に広がり、さながら特殊能力の何でも屋とでもいえるよう
      な彼の事業は、気がついたら表の仕事から裏の仕事、あらゆることを請け負う人材
      派遣会社となっていた。
      ・・・それが、ESP人材派遣会社 イトセ の始まりである・・・・・

      イトセの最上階の自分の部屋から、眼下を流れる人の流れを見ていると、矢神想十朗
      は、いつも若かったころの自分を思い出す。とてつもなく巨大に見える高層ビルを
      眺めて、いつか自分もあの頂上に登るのだ、と生きる上での目標のようにしていた自分。
      しかし、いざ頂上に登ってみると、その後のことを考えていなかった自分に気づき、想十朗は
      よく一人で苦笑することがある。自分が恵まれていないというわけではない、むしろ、
      想十朗ほど幸運の女神に愛されていたものはいないはずである。しかし、実際に上の
      立場になって社員達の活躍を統括していると、もう一度自分を、眼下の、人の流れの
      中に委ねてみたいという欲求がわいてきて、自分の感情が持て余し気味になるのを
      止めることができないのだった。
      「失礼します。」
      ふいにドアをノックして一人の若者が入ってきたことにより想十朗の思考は中断
      させられる。だが、それまでの思考は一気に押し流して社長の顔になると、想十朗は
      ゆっくりと振り向いた・・・・

      想十朗に向かって軽くお辞儀をしてにっこりと微笑んだ若者はイトセのスピード
      能力者、五月雨流星だった。
      「あいかわらず速いな。」
      想十朗の言葉に、白いセーターと細身のジーパンを身につけた長身の若者はにやにや
      しながら「いえいえ・・・」と呟く。かたや伝説を創造しながら、出会ったころと何も
      変わっていない。部下であり、若い友人でもある流星を見ていると、想十朗は、遠くに
      感じても、振り替えると後ろでにやにや笑ってる人間を見ている様な不思議な気持ち
      になることがある。
      初めて会った時から、流星は伝説的な人物であった。まだ、想十朗がESPを捜し初めて
      間もないころに、する事なす事すべてが速く、流れ星が流れている間に三回願い事を
      言うことができたという逸話から、その名前とからめて"スピード・スター"と呼ばれ
      ている少年がいるという噂を聞いた時、想十朗は直観的にESPではないかと思った。
      しかし、実際にあってみると流星は想十朗の予想をはるかに上回るスピード能力を
      持ったESPであった。○橋名人の1秒間16連打をこえる1秒間28連打を少年が造作も
      なく行うのを見たとき、想十朗はその少年の才能に驚喜乱舞し、数年後の再会を約束
      してその場を去った。
      そして、その少年は十数年後にイトセに入社し、いまこうして次々と伝説を造り続け
      ている。そのいきいきとした若い友人を見ながら、うらやましい・・・と思うと同時に
      今の自分の立場がうざったいと感じてしまうことは想十朗にとって仕方のないこと
      だったかもしれない。
      「依頼は無事完了しました。」
      想十朗は、仕事を完了したら社員たちに直接報告にくるように義務づけていた。そう
      することは、現場に出れないことの裏返しともいえたが、いかに効率が悪くなろうと
      もこの習慣を変えるつもりは、今のところ想十朗にはなかった。
      「例の物もすでにあちらに届けています。」
      今回の流星の仕事は、裏の世界のクイズバトルトーナメントに出場し、優勝商品の
      "国宝 雀の涙"というダイヤを手に入れよ。という依頼だった。
      決勝戦の早押しで、流星は先代チャンピオンのチャンプ中野とあたる。チャンプの名
      は伊達ではなかったが、問題の一文字目から内容を即時予測して答える流星の超絶ス
      ピード能力の前にチャンピオンといえども破れるしかなかった。後にこの戦いは
      "スピード・スターの奇跡"として裏のクイズバトルトーナメントで代々語り続けられ
      ることとなる。

      流星の報告を聞き終えたとき、想十朗はそのスピード感あふれる語りに思わず拳を
      握りしめていた。そんな彼を見てくすりとわらう流星に気づくと、想十朗は照れ
      笑いをしながらも、思わず愚痴らずにはいられなかった。
      「しかしな、流星。私はお前がうらやましいよ。私の仕事はあまり面白みがあるわけで
      はない。こんなことでも、私の唯一の楽しみなんだ・・・」
      そんな想十朗を流星はやさしく見つめていたが、
      「たしかに、そうかもしれない・・・でも、俺たちはあなたがそこにいるから自由に動き
      回ることが出来る。それはとても凄いことだと思いますよ・・・」
      というと、社長室をあとにした。

      流星が部屋をでると、想十朗は再び窓の外を眺めた。眼下を流れる人の渦・・・・・・
      適材適所、そんなことは分かっていた。自分はここにいるのがベストだという
      ことも・・・・・自分がここに必要であるということも・・・・・・・・・

      ・ ・ ・
      しかし、彼は、自分の超絶管理能力を疎ましく思わずにいられなかった・・・・・

                                          <おわり>  

(02月02日(月)16時10分41秒)