『テーマ館』 第26回テーマ「さよなら/微笑み」


落語っぽいね 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:04月03日(土)23時27分35秒


      「偶然なんかじゃないさ」
        ヒロシは手すりに両手をかけ、満天の星空を見上げながら言った。
      「僕はバーテンの仕事でここに来た。君も仕事の都合でここに寄ったんだよね?」
        高揚した感情を遠慮がちに口元に隠したエリコは、「ええ」とうなずき、一歩ヒロトのもとに
      歩み寄った。先頃から少し強くなった風に押されるようにして。
      「じゃあ、僕は君に、君は僕に会うために、ここに来た。それでいいじゃないか。これからは、
      君も僕も帰る場所は一緒さ」「いいえ、違うわ」
        意を決したような顔で、キョウコは言った。
      「あなたは私にさよさらを言いにここに来たんだわ」ふいに風が強くなる。
      「バーテンの仕事でしょ。何度も手を振りに来たのよ、あなたは」

      「お疲れさまっす。全然ダメだったっすね」
      「数字とれてねえからなあ。オレもトレンディ面じゃなくなってきたってことか」
      「ああ、ホントあんたはもう古い。その微笑みだって、気色悪いったらありゃしない」
      「お、オレのこの微笑みをバカにすんのか...まあそうかもな」
      「だろ? あんたの微笑みは、人にケナされて、叩かれて伸びるんだよ」
      「ああ、何かそんな気がしてきた。何か嬉しいよ」
      「だろ、微かにM(笑む)だもんな、お前」