第40回テーマ館「三日月」



三日月島の恐怖 原千円札 [2001/07/06 22:00:25]


 喫茶店にて。

「今日も三日月が綺麗だなあ」
 友人は、僕のハートのUを取って、言った。
「ああ……」
 僕は、友人のカードを取った。スペードのエース。
「お、そろった」
 僕は、二枚のカードを机の真ん中に置いた。
「ああ、またか……今日はやけに運がいいなぁ」
「時々、こういう時があるんだ。特に何もない日なのに、やたら運がいいって日」
「じゃ、俺は運が悪い日なんだろな、多分」
「そうだろ」
 僕らはババ抜きを続けた。

「マスター。コーヒー!」
 友人は、大きな声で言った。それほど狭くない店なのだから、ちょっと声を掛ける程度でい
い。
「……ああ……」
 ダンディな髭を生やした店長は、静かに言った。
 口にタバコをくわえているだけで、とてもしぶい。
「あのねえ、何日同じ場所で、同じトランプで、同じ相手とやって、楽しいのかい?」
 マスターが、コーヒーを入れながら言った。
「楽しくなきゃ、やってないってぇ」
 僕の友人は、言った。
 僕も、同感だった。

「おっと。……今日は、僕の勝ちだな」
 そう言って、僕はハートのUとスペードのUを同時に出した。
「ああ、またかぁ………」
 友人は、頭を抱えた。
「これで何回負けたんだい?」
 マスターが、空のコーヒーカップを片付けながら言った。
「………324回中324回」
 友人は、静かに言った。記憶力が、相変わらずいい。
「ふーん……ま、次こそ勝てるさ」
 マスターは、言った。思いのこもった言葉だ。
「……よーし、明日も勝負だ!」
「……受けて立つぞ」
 僕は、冗談のように言った。

「じゃ、またな」
「ああ……明日だろ?」
「そぉ! 明日こそ、勝つ!」
「………」
 僕は、最後は無言だった。

 昨日も、同じ事をしていた。
 ここ最近ずっと同じ事をしている。
 何も変わらない現実。しかも、それに結構満足している。
 それが、僕にとって恐怖なのだろうか?
 空を見上げた。
 三日月が、大きく輝いていた。

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