第40回テーマ館「三日月」



三日月の光が強い夜は――― 華丸縛り [2001/08/10 22:23:22]


三日月の夜の怪物は、仲間を探している。
通りを歩いている少女、公園でたむろしている高校生、踏み切りに行く手をさえぎられたサラリ
ーマン。下界の住人たちを夜空から眺める。選択肢はさまざまだが、連れていくのはひとりだ
け。
怪物は考え込む。やはり仲間にするなら出来るだけロマンティックな人間でないとな。三日月の
世界に合わないだろう。
怪物はいつもオシャレに気を使っている。この日も、欠けた月の案内人としてなるだけクールな
タキシードを下ろしたつもりだ。周りの同僚に比べたら、顔もとんがってるし、友人からも「神
秘的な輪郭だね、すごいカーブだ」と感心されっぱなしだ。

「でさー、あいつ何て言ったと思う。僕は君の太陽です! だって。超キモクねー」

怪物の耳がピクンと反応する。
(いまの女性は……)
暗い夜道を帰宅している女子高生が、携帯電話相手に笑い飛ばしている。静寂したがっている闇
がとても迷惑そうだ。
怪物は、スーと音もなく彼女の目の前に着地した。とっさの事に顔を強張らせる女子高生。怪物
は力の入ってない彼女の右手から電話を奪い取ると、にこやかに、それでもクールに三日月の当
選を告げた。

「おめでとう。君は僕たちの仲間に選ばれた」

そう言うと、怪物は怯えている彼女の肩に手をかけた。

「ふふ、そんなに固くならないで。素直に喜んでいいんだよ、これは名誉あることなんだから」

「あ、あなた、何者なの?」

震える声で彼女は尋ねる。怪物の異様な身体と、意味不明な言動の答えを知るためには、この質
問しかない。

「僕かい。僕は三日月の使途。いわゆる案内人さ。空を見上げてごらん、三日月がきれいだろ
う。こんな夜の日は新しい仲間を探すために、僕らみたいな案内人がたくさん地球に降りてくる
んだ」

「それで……、私が選ばれたってのは」

「そう!! 君が僕らの仲間になれるってことなんだ。おめでとう」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして私なのよ。こんな小汚い服装の女子高生なんか、月とは全
然合わないじゃないの」

「君が太陽を罵っていたからさ。三日月にとって太陽は一番の敵だからね。それに服は向こうで
直せばいい。顔も気にするのはパーツのバランスだけで、あとは有名な改月師が上手く整えるか
ら問題ないのさ」

「整えるって……、あなたみたいな顔になっるていうの!?」

「そうだよ。さすがに僕ほど完璧な顔を手に入れるのは不可能だけ―――」

「嫌よ! そんなとんがってるの!! 気持ち悪い」

怪物の顔が、闇をかき消すほどの光を放つ。

「き、気持ち悪い?」

パッパッパッと予期せぬ言葉に、鋭い三日月の顔が点滅を始める。

「てゆーか、キショい」

女子高生はきっぱりと断言した。三日月が心の奥底で気にしている事、コンプレックスを、プラ
イドを粉々にうち砕いてしまった。そして怪物から携帯電話を取り返すと、さっさと歩き出して
しまった。

「わ、わ、わたしの顔が……、き、キショい?」

三日月の怪物の光は、さらに激しさを増す。


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