第38回テーマ館「こんな一日」



蛍光灯は今も光らない アライバウンス [2001/02/13 01:32:25]


一日の始まり
クルクルと、頭の上でハエが回転した。
何か、独特の腐敗というか、黒いというか、汚れている、沈んでいる、そんな感じの臭気を自分
に感じて彼は近寄ってきたのだろうか?そう思うと腹が立ち、近くにあるテレビ雑誌を丸め、ム
キになってヤツと戦っている自分がいる。ヤツめ!なかなか頭がいい。というより、俺が悪いの
か?などとぶつぶつ独り言を言いながら、しつこく、ヤツ全体を狙っていると、観念したのか、
窓の隙間からブーンッだって・・。
上手く逃げ果せたハエに敗北をきっするのが悔しい俺は、そのまま意味もなく雑誌を振り続け、
「オメーを叩こうと思ったわけじゃないのよ、ああ、手首の運動、運動、」とか何とかまた、独
り言。っと気を抜いた瞬間に手のひらから雑誌、スッポ抜け、天井めがけてまっしぐら。見事、
切れかかった蛍光灯にぶち当たりガッシャーンだって。ゴール、祝福の鋭利な蛍光灯の破片が一
斉に真下の俺に浴びせかかる。最後に大きいのが垂直にグサット。
という事で、今病院にいるんだけど、コレがまた混んでいて嫌になる。
待ってる患者を見ていると、なんだか、見た感じ健康そうじゃねーかお前等、緊急って感じじゃ
ないのじゃない??っていうかココ整骨院だし、そりゃそうか。いつも、間違っているの俺。あ
ー病院って感じのところだから平気だろって来たのが間違いだった。だけど、俺の頭に蛍光灯一
本丸ごと刺さってるの見れば、どうぞ、どうぞと順番抜かしでビップ。すぐ看てもらえると思っ
たのに、なに、この人たち、無視?無視なのぉ?まさか、ファションだと思ってるんじ
ゃ・・・、違う、かなりの緊急事態なの俺。これ刺さってるのよ、皆さん。緊急事態を知らせる
ために、看護婦らしき白衣の女性の前で、垂直に頭に刺さってる蛍光灯を少しずらす。その瞬
間、頭上から血シブキが、小さな噴水のごとくたった。OKだ。やっとだ。事の重大性を気づいて
もらえる。そう、俺、緊急事態なの。と話そうと思ったら、その女、「プッ、面白いですね、そ
れ。そういうシュールなの結構好きですよ。」っておっしゃいました。いやいや、奥さんって奥
さんか奥さんじゃないのかは問題じゃなくて、今はこの頭の蛍光灯が光ってる・・・・、はっヤ
バイ。がんばっちゃったせいで一瞬、頭が変になった。気づいたら看護婦さんは、廊下のはるか
遠く。おれ、これ以上時間がたったら、本気でヤバイと思い後を追いかけた。彼女は手にお茶を
持ち、廊下の一番端の部屋に入っていった。
「何だね、君は!」
その部屋は院長室らしく、院長と思われる、太った男がいた。彼の肉でムチムチ、パンパンにな
っている白衣の名札には
ゴードン
と書いてあった。だけど、見た目、日本人。少しむかつく。
「あっ、さっきの面白い人、院長、この人面白いんですよ!」
ってバカ看護婦がゴードンに紹介しやがった。ばか、人間第一印象が大事でしょ?違う、面白い
人って紹介されて、蛍光灯、頭に刺していたら、本当に面白い人じゃないですか?違います?
「君、それより、その頭の蛍光灯、大怪我じゃないか。」
さっさすが、ゴードン。このバカ看護婦とはやっぱ違う。あんたはやっぱり院長です。すいませ
んでした。よく見ればその肉体も筋肉質なデブですね。さあ、直して。あんたに任せる。終わっ
たらチャンコ鍋食おう。もちろん俺のおごりだ。来場所もがんばれよ。
きみ、そこに寝なさい、どれどれ、アラー、深く刺さってるね。脳みそまでいっちゃってるよ。
この状態で生きてるのが不思議な位ですよ。これは、抜いたら死んじゃうね。うーん、この上か
らギブスで固定して刺さったままで暮らしましょう。日常生活には差し支えないですから。
なんてな事を当然の口調でいいやがる。俺、男泣き。これから一生、蛍光灯を頭に刺しながら生
活しなければならないのか。死んだら、火葬場で骨と蛍光灯が残るのか。それを、親戚のまだち
っちゃな、俺のことなんて知らないガキが箸でつまんで、お父さんに言うんだ。「人間の骨って
ガラスみたいだね。」って。それで、お父さんは、悲しい顔をして、いやいや、それは本当にガ
ラスなんだよ。この人はね・・・ってガキに説明するのが目に浮かぶ。そう思うと悲しくなっ
た。だけどみんな、蛍光灯も骨ツボに入れておくれ。それはもう僕の一部だから。蛍光灯は今も
光らない。


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