第58回テーマ館「死」



天使と悪魔 しのす [2005/07/24 19:26:24]

 私は死んでしまった。
 するとあたりに白い霧が立ちこめた。
 霧の中から美しい少女が現れた。頭には白いリングが浮かんでいた。
 天使の輪だろうか。いいシャンプーを使っているのか、と私は馬鹿なことを考えた。
 「お迎えにあがりました」天使の声は、鈴の音のようだった。
「天国へご一緒します」
 天国か。どんな場所だろうか。でも…。
 「ちょっと待った」
 その時、黒一色でコーディネートした美しい青年が現れた。
 美青年なのに、おしりにとがったしっぽがあり、もしかして悪魔かも、と私は思った。
「この方は、こちらのお客さんです。ほら地獄移送許可書があるでしょ」
 悪魔は、黒っぽい紙をひらひらさせた。
 「なに言ってんの」美少女の顔が一瞬醜くゆがんだ。
「こっちだって、天国昇天通知書があるのよ」
 許可書と通知書と、どっちが強いんだろう。契約した憶えはないけど。
 「ブッキングかぁ」と悪魔が頭をかく。
「でもあんた」と悪魔が馴れ馴れしく天使に話しかける。
「天国は、最近お客いっぱいだろ。テロや戦争で殺された人はみんな天国行きだもんな。
 殺されれば、今までのすべての罪は許されるみたいな。だからさ、このお客は譲ってくれよ」
 「なに言ってんのよ。そんなこと関係ないし」天使は凛として言った。
「最近悪いことする奴多いから、地獄もはやってるでしょうに。大体自殺したら、地獄行きだし、自爆テロってみんな地獄行っちゃうのよね」
 「そうそう、で最近地獄の治安が悪くて」と言ってから、悪魔はしまったというように舌を出した。悪魔の舌は、二つには割れていなかった。
「あのさ、あんた、天国の方がイメージいいから、天国行きたいと思うかもしれないけど、天国も大変だよ。
 たとえばさ、天国の銀行に貯金したはいいが、天使たちが使い切って、もうないとかいう噂があったり、地獄の悪魔たちに金を貸したりとかね。で、悪魔たちに金を貸したはいいけど、返済が滞っているという話もあるんですよ」
 「またぁ、あることあること、言ってくれちゃって」
 「じゃあ、やっぱりあるんだ」
 天使は、てへっと舌を出した。
 天国も現実世界と変わらないのか、と私は少しがっかりした。
 「地獄はいいですよ。したい放題ですし」
 「でも治安が悪いんでしょ。天国はきれいよ」
 「でも腹黒いし」
 天使と悪魔はにらみあった。
 「まあまあまあ」と私は二人の間に入った。って、天使と悪魔をなだめてどうする。
 「じゃあ、この人に選んでもらいましょうよ」
 「それでいいよ。あんた、どっち行きたいか選んでよ」
 美少女と美青年にまじまじと私を見た。
 二人に見つめられた。私は一瞬照れたが、本心を言った。
 「私、極楽、行きたいんですけど…」
 「仏教徒かよ」



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