第58回テーマ館「死」



生者と死者と しのす [2005/07/26 22:05:00]

 映画でしか見たことのないような豪邸の居間へ、私は案内された。
 シャンデリアの薄暗い灯がともるだけの居間には、5人の男女が椅子にすわっていた。
 「莉奈から、幽霊が見えるというお友達がいると聞いて、連れておいでって言ったんです」
 莉奈から母親だと紹介された榊原夫人が、椅子にすわったままで言った。 彼女の横には2人の女の子に、老婆、そして男の子が1人いた。
「ここにいるのは、莉奈の姉の莉絵、莉奈の妹の莉紅、莉奈の祖母の孝子、そして莉奈の弟の莉久の5人です」それぞれ紹介されると軽く頭を下げた。 照明の関係か、皆青白い顔をしている。そう言えば、莉奈も色白だった。
 榊原夫人は、私をじっと見つめてから、
「やはり見えるのねぇ」と言った。
「ここには幽霊がいるの。普通の人には見えないはずなのにね」

 そう、私には幽霊が見える力があるのだ。
 そしてここにいる全員が見えている。しかし一人一人をじっと見たが、誰が幽霊で誰が生きているのか、私には見分けがつかなかった。あえて言うなら、顔色から皆死人に見える。
「誰が幽霊かわかるかしら」と榊原婦人は言った。
 これは挑戦なのだろうか。
 榊原夫人にも、ここに5人いることが見えている。ということは、彼女は幽霊なのか。
 しかし榊原夫人は、単に幽霊である誰かから何らかの方法で幽霊がいることを教えてもらっただけかもしれない。それとも私みたいに、幽霊が見えるのか。
 彼らを後ろから見た時に、頭が石榴みたいにざっくりと割れていて血が黒くこびりついていたり、背中にどす黒い血痕がついていたりするのが見えれば、すぐに幽霊を見分けられるだろう。
 しかしどうやら彼らの中に幽霊がいるとしたら、そういう外傷はなく死んだようだ。病気で死んだ場合は、見分けることが困難だ。
 となると、方法は一つ。
 「これならどうでしょう」と私は、顔の皮をめくった。
 かっと口と目を開いている真っ赤なおぞましい肉の面が、彼らには見えたはずだ。
 彼らの反応は、ちょっとだけ驚いた風だった。
 「わかりました。私の本当の顔を見て驚かないということは、皆幽霊ですね。生きている者で私の本性を見て、怖がらない人はいませんから」
 「そう、みんな幽霊なの」と榊原夫人は楽しそうに言った。
「ふーん、だからあなたには幽霊が見えたのね。あなたも幽霊なのね?」
 「違います。私は、化け物です」そう言うと、私は顔の皮を元に戻した。
「あなたたち幽霊は死んでいるけれど、私は生きています。幽霊と化け物を一緒にしないでください」
 そして私は胸を張って言った。
「私は生者なんですから」



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