第58回テーマ館「死」



生きるということ、死ぬということ。 Koh [2005/08/31 17:55:17]

 5年生存率。
 ガン告知を受けた患者なら、聞いたことがあるだろう。
 ドラマのサブタイトルにもなったから、知っている人は多いかもしれない。
 これは、ガンが画像診断など、診察上消えてから(これをCRと言う)「5年間無病
で生存している患者の数」を表すものであって、患者本人が5年後生きているかどうか
の確率ではない。
 要するに、5年間に治療法が飛躍的に向上したガンに関しては、この数字はあまりあ
てにならないのである。(少なくとも、新薬による治療の場合、5年後でないと生存率
を論じることができないはずだ)

 私は血液のガンである悪性リンパ腫を患っている。細胞型によりいくつかに分類でき
るが、私の場合一般的な分類では記されない珍しい複合タイプだった。
 根治のためには造血細胞の移植をする必要があるが、3週間に一度の抗ガン剤投与、
全6回のコース中、2度も血圧急降下・心拍数低下により倒れた。これでは移植全処置
である大量投与は不可能である。諦めるしかなかった。だが、私の場合、根治を目指す
のでなければ移植をしなくても良い。
 生きるために死を覚悟して移植するより、再発の不安を抱えながらも確実に生きる道
を選んだ。
 それは、私が辛うじて「症状A」だったからかもしれない。症状Aとは、体重減少も
発熱、寝汗など自覚症状のないものだ。これがある場合、症状Bと呼ばれ、予後不良因
子にかかわってくる。
 だが、それでも私のタイプの場合、5年生存率は45%程度だ。症状Bともなれば1
0%程度にまで低下するのだから、まだマシだ。
 そして、私が受けた治療法は、何年も前から変わらない定法だった。治療開始が半年
遅ければ、当時まだ保険対象の認可がなかった薬も適用可能で、さらに治療効果を挙げ
ることができたのだろう。生存率も45%以上と考えて差し支えなかったに違いない。
 そうして、例え45%であろうと、自分はまだ若いのだから大丈夫、そう信じて必死
に生きてきた。抗ガン剤の副作用で手足に軽く神経障害が残っているが、自力で歩け
る。歩けなくなる人もいるのだから、自分は幸運だ。何事も前向きに考えることにし
た。
 だが……再発した。
 再発への不安が現実になってしまった。
 再び死への道が目の前に現れたのだ。
 そして今。
 私が歩く道は、生と死、どちらに繋がっているのだろうか。

「生きたいと思わねばならない。そして死ぬことを知らねばならない。」−ナポレオン


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