第58回テーマ館「死」



かっこいい自殺 華丸縛り [2005/09/28 04:10:42]

 真夜中。廃ビルの屋上で、二人の男がいた。彼らの立場は対照的だった。一人は銃口を
突きつけられ、一人は銃を突きつけている。
「死ぬ前に、これだけは言わせてくれ」
「なんだ。冥土の土産に聞いてやる」
「俺が死んだら、俺の代わりに復讐してくれ」
「……もちろんだ。後のことは任せておけ」
 そして、トリガは引かれた。
 額を貫かれた男は、満足そうな笑みをたたえながら静かに崩れ落ちた。
「じゃあ、約束だな。お前の代わりに、お前のかたきを討つぜ」
 一人、残された男は銃を自分のこめかみに当てると、そのまま何のためらいもなく発砲
した。
 廃ビルの屋上に、二人の男の死体。夜の風が、屍の周りを狂ったように吹き荒れた。

                    *

「……いかかでしょう? これが我が社で提供しているなかで、いちばん格好いいコース
ですが」
 二人の男が銃で心中する映像を流したところで、その会社員は微笑みをたたえながら言
った。
「んー、悪くないけど、もうちょっと台詞に意味を持たせたいよね」
「そうだね。このままだったら、何のために死ぬのか分からないし」
 高校生くらいの二人の少年が社員に不満もらした。
「ええ、もちろんです。これはあくまでもサンプルですので、遺言の台詞など、細かい設
定はこれからお客様と相談して考えていきましょう。どんな要望でも応えますので、どん
どん仰ってください」
「そっか、それなら安心だ。じゃあ、とりあえず自殺のシチュエーションはこれにするよ
」
「うん、銃のシーンは格好良かったしね。おー、お前を殺すって考えると、なんかドキド
キするな」
「は? ちょっと待てよ。銃を撃つのは俺の役だろ。お前はただ冥土の土産で、遺言を残
しておけばいいんだよ」
「いやだよ! 俺が銃を撃ちたいんだ」
「俺だって撃ちたいよ!」
 口論を始めた少年にむけて、社員はおだやかな口調でなだめた。
「まぁ、まぁ。どちらも銃を撃ちたいのであれば、そのように状況を変えれば可能ですの
で。ここは仲良く、自殺の仕方を考えましょう」
 格好いい死に方、感動的な死に方。人生を素敵な自殺で締めくくろう! お客様のご要
望は全て叶えます。
 集団自殺が社会で増加するなか、これがこの自殺提供会社のキャッチコピーだ。

http://hanamaru.client.jp/






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