第42回テーマ館「悪魔」



悪魔は宿題をして――― 華丸縛り [2001/12/30 21:14:57]


陰気な気配が、背中越しに伝わってきた。
さわさわさわ。
下品な足さばきで、床を這いずり回る音が聞こえる。
右に左に。
せっかちに移動している。その動作に一体何の意味があるのか―――未だに分からないが、とり
あえず前には進んでるようだ。
僕は気付いていないフリをしている。
ぎりぎりまで何もしないつもりだ。そっちのほうが手早く、簡単に始末できる。時折口笛などは
さみながら、僕は上機嫌をよそおってみた。
思ったとおり、そいつはどんどん僕に近付いてきた。荒っぽく移動して、眠っていてもその足音
で起きてしまいそうなくらい、はっきりと忍び寄ってきた。明らかに、そいつは怒っている。
しかし、それでもまだ僕は前を向いたまま、何の反応もみせていない。
机に向かって、学校の宿題をやっている。

「なんだ、もうシン切れたのかよ」

なんて愚痴を漏らしながら、無防備に筆箱をまさぐっている。
するとそいつもいい加減気付いたようだ。自分が舐められていると。
その瞬間、足音が止まった。
代わりに地面をえぐるような衝撃音と、かみ合わない歯車のようなでたらめな鳴き声がした。
うっすらとノートに沸きあがった影に、僕はふぅ、とひとつ息を吐いた。
全く今の状況と関係ない、どうでもいいことを考えて、思わずため息が出たのだった。

「あーあ、どっちにしても明日謝らなきゃな」

―――たぶんそいつは今、空中で静止している。

「この借りたノート、汚してごめんって」

僕が言い終わらぬうちに、机一面に緑色の液が飛び散っていた。同じくして、ボトボトと固形物
が地面に降りそそいだ。

「言い訳は何にしようかな」

くるりとイスを滑らすと、僕は細切れになったそいつを見て呟いた。
結構いい加減に切り裂いたので、ひとつふたつ痙攣しているものもいた。
たぶん、まだ触ったら温かいのだろう。

「……悪魔が来たとでも言っておこうか」

ニヤリと冷たい笑みを浮かべると、僕はまた机に向き直った。

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