『テーマ館』 第29回テーマ「死にたくない」


猫 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:09月08日(水)17時47分09秒
            

      暗い。
      目が覚めたら、こんなとこにいた。確かなのは、冷たい床だけ。
      何も見えない。
      まぶたの裏を見つめているのと一緒だ。こんなとこって、ここはどこだ?
      眩しい。
      視線をあげるごとに、床が、壁が、水色なのが解る。
      直径10メートルほどの部屋の中に、捕らわれの身らしい。私は。
      さらに上を見やると、奇妙なカタチの物体が、ゆっくりと落ちて来ているのが見えた。
      ふいに現れた光源はあれらしい。
      丸い球体のまわりを、もっと小さな、拳くらいの大きさのやはり球体がいくつか、とんでもない速さで回っている。
      ようやく眩しさに目が慣れて、この部屋にまったく何もないわけではないことに気づく。
      それは奇妙なものだった。
      部屋の片隅に、小さな箱から突き出たマイクのようなものが、
      今もゆっくりと降下中の光球体を追いかけるように、じょじょに角度を下げている。
      箱にはいくつかのランプがつき、その裏から細いケーブルがすぐ近くの、
      牛乳瓶らしきものにつながっている。
      瓶の中は、緑色の気体が充満しているようだ...それが解ったとて。
      再び視線を球体に戻すと、それはすでに、私の頭の高さにまで下りてきていた。
      キレイだ。
      球体はそこで止まり、マイクの動きも止まった。
      そして、突然、何も音を立てることなく、それは崩壊した。
      キラキラと、眩しい破片が花となり、私のまわりに散った。
      ふいに、視界のスミに赤いランプがともった。
      慌てて振り返ると同時に、牛乳瓶が耳障りな音を立てて割れた。緑色のガスが弾けた。
      毒だ。
      喉に、腹に何か重い詰め物がされたかのように、呼吸が困難になる。
      助けてくれ。
      薄らぐ意識が、部屋の片隅に光の筋ができるのをとらえる。
      天井が開いていく。
      ...私を見るな!