『テーマ館』 第29回テーマ「死にたくない」


キャラクター 投稿者:Lepi  投稿日:10月30日(土)22時19分00秒
       

      「K子ちゃん、お疲れ!」
      「あ〜あ、また殺されちゃったわ。私だって死にたくないのに」
      K子はずれた眼鏡を掛け直すと、出迎えたT夫に苦笑しながら答えた。
      「でも前半は注目されるんだから、まだいいじゃないですかぁ」
      まだ幼さの残るS美が、ひょこっと現れて言った。
      「あたしなんて、どんな選択肢でも、ず〜っと脇役のままなんですよぉ」
      「脇役だったらまだいいぞぉ」H田という中年男がぬっと顔を出す。
      「わしなんざ、真犯人が見つからんと、かわりに捕まってしまうんだ!
       冤罪だ! 人権侵害だ! アムネスティに提訴してやる!」
      わめき続けるH田を横目に、K子はため息をついた。
      「はぁ〜、私だってたまにはハッピーエンドを迎えたいのに、
       あの鼻の下のばしたプレイヤー、ヒロインばっかり追っかけて
       何回やっても私を見捨てるんだから!」
      最初っからそんなエンディングのないS美が意地悪そうに、
      「メガネッコなんて、大抵ヒロインの引き立て役だもんねー」
      「むっかぁー……」
      「同志よ!」いきなりT夫が二人の間に割って入った。
      「仲間割れするでない! よいか、すべての諸悪の根源、
       このような舞台を設定し、このような役割を我らに押し付け、
       我々を弄んできた連中に、今こそ正義の制裁を加えるのだぁ!」
      「あなた、やっぱり危ないわ……設定どおりね」K子が呆れたという風に首を振る。
      「正義の制裁って……何かできるのか?」
      H田の問いに、T夫は嬉々として計画を披露した。
      「わーい、面白そう!」S美がぴょんこぴょんこ跳ねながら賛成する。
      「うむ、乗った!」とH田。
      「ま、いいか。それも一興ね」K子も頷き、T夫は満足げに手を上げた。
      「みんな、見ろ。早速カモがアクセスしてきたぞ」
      「あ〜、あいつ!」とたんに、あまり積極的でもなさそうだったK子の表情が変わった。
      「あいつも、こないだ私を見捨てたんだ!」
      「さあ、その気持ちをぶつけてやるが良い! 皆いいか、一、二の、三!」

                *          *          *

      「本日午後、多層通信式自己拡張型ゲームメーカー最大手のX−社は、
       記者会見でゲーム事業から全面的に撤退することを発表いたしました。
       その理由は明らかにされておりませんが、同社サーバーの突然のダウン、
       同社契約有名プログラマーの失踪、さらにX−社提供のゲームに参加
       していたプレイヤー数十名の謎の昏倒など、一連の不可解な事件と
       関係があるとの憶測もあり……」