『テーマ館』 第27回テーマ「ドラゴン」


俺のドラゴン 投稿者:杜 ありさ  投稿日:07月08日(木)01時34分59秒

       ドラゴンを創った。俺は元々人見知りする性質で、子供の頃から空想ばっかりして
      遊んでいた。そのせいで、俺の夢はいつしか、空想上のドラゴンを創る事になっていた。
       そして、幸い俺は理系の学科の点が良かったから、大学に行き、希望通り生物学を
      専攻できた。
       とはいえ、ドラゴン造りはそう簡単にはいかなかった。まずは、実験施設や材料を
      使う大義名分が無いといけなかった。しかし、これは何とかできた。「博士論文
      のための爬虫類の遺伝子操作実験」という名目で簡単に誤魔化せた。
       だが次が、大変だ。なにしろドラゴンを再現するのだから。まあ体は大きな
      蜥蜴と蝙蝠でなんとかするとしよう。だが、あのフ炎&塩素ブレス、特に
      炎のブレス能力には手を焼いた。こればっかりはいくらDNAの操作で蛋白質の
      合成を操作できるったって面倒だ。なにしろ基本的に蛋白質は燃えるからな。仕方
      ないから無機化合物による器官も組み合わせることにした。
       とまあ、そんな感じで他にも苦労を幾つか重ねて、ようやくドラゴンができた。
      おかげで2年留年したけどな。しかし、俺のドラゴンはそれだけに傑作だった。
      なりは小さいが頭も良いし、言葉も喋るようになった。
      ある日、俺は研究棟の外にドラゴンを連れて行った。自慢もしたいし、なにより
      そいつが外に出たがった。こうなりゃ生物学的封じ込めなんて糞食らえだ。実際、
      俺はドラゴンにそういった処置なんかしていなかった。
       だが、ここで俺の予想外の事が起こった。そのドラゴン、外に出るなりその辺
      の草を食い始めたかと思うと、一気に分裂・増殖したのだ。驚くまもなく、俺の
      周りはドラゴンで埋め尽くされた。しかも、俺の設定した通りに、ドラゴンは
      無節操な雑食性で、生みの親の俺以外は何でも食った。俺を食わないのは、初めの
      一体が刷り込みで俺を親と思ったのが、なぜかその分身にも記憶ごと受け継がれた
      せいだ。
       暫くして、TVは映らなくなり、周りは共食いと繁殖を繰り返すドラゴンばかり
      になった。おりしも今は世紀末。破滅には時期的に丁度良いんじゃない?
       反省?無いね、そんなの。人類が絶滅したって、困るのは人類だけだし、
      ドラゴンのせいで、生態系も完膚なきまでに破壊されたけど、どうせ暫くすれば、
      ドラゴンも進化して、新しい環境を創るだろう。な?問題無いんだよ。
       俺?おれは構わないよ。夢もかなったし、いつ死んだって構わないんだ。