『テーマ館』 第27回テーマ「ドラゴン」


ドラゴンを倒す者 投稿者:らいくん  投稿日:07月16日(金)00時14分39秒

       とある酒場の喧噪の中の喧噪のひとつ……。
       「ドラゴンを倒す…」その言葉で、酒場は静寂に包まれた。
       「冗談だろ」その静寂を作った男の対面に座っていた女が言った。
       「冗談なもんか! お前は俺の本当の実力をしらねーんだ!」戦士風の男がテーブルを叩いた。
       「やめなよ。あ、あんたには無理だよ」女が男へ悲しそうな目を向け、震えながら言った。
       「女に無理って言われたら、俺は男として黙ってらんねーたちなんだ」男はすくっと立ち上がって剣に
      手をかけた。「俺はやってやる。必ずあのドラゴンを倒してやる!」と怒鳴った。
       「ドラゴンを倒した人なんて、この世の中にいないんだよ」
       「だから、おもしろいんだろ。俺がその最初の一人になってやるさ」男は高笑いした。
       「炎にやられて、まるこげになるのが落ちだって!」女は男から視線をはずし俯いた。
       「いや、倒す! そして伝説になってやる」
       「そ、そんなに言うなら好きににしなよ。でも、どうなっても知らないからな」そう言って女は席を立った。
       「勝手にするさ。じゃぁな」そして、男はその夜、ドラゴンの待つ山へと向かった。
       男がちょうどドラゴンの住む山の入り口へさしかかった時、前方に何者かの気配を察知した。
       剣を抜く。剣が月の明かりで照らされ光る。そして、身構える。
       「何者!?」
       「わたしだよ…」それは、酒場にいた相棒の女であった。
       「どうして、お前がここに?」
       「悩んだんだ。凄く……」女が言った。
       「悩んだ? 何が?」男は安心し、剣を戻そうとした。
       「剣を戻すな」女は必死の形相で男を睨んだ。
       「はぁ?」男は疑問で、動作を中断した。
       「なぁ、聞いていいか?」女は地面を見つめたまま話した。
       「何をだ?」男は聞いた。
       「なあお前、わたしの事……好きか?」
       「………。はぁ? どうしたんだお前、いったい?」男は呆れた顔をして首を傾げた。
       「いいから、言えよ! 私のこと好きか?」
       男は答えに困った。少しの時が刻まれた。そして、男は答えた。
       「ああ。愛してるよ」
       「ほ、ほんとうか?」女が男の目を見つめて言った。
       「嘘は嫌いだ」
       「そうか、ありがとう。うれしい」女が静かに言った。
       「なんだお前、俺がドラゴンに倒されるとでも言いたいのか? それで、心配して……」
       「ちがう!」女が激しくそれを制した。
       それについては、男は何も言えなかった。
       「お前、私を殺せるか?」女は小さく呟いた。
       「はぁ?」男には疑問が生まれた。
       「わたしが、この山のドラゴンだ」女は言った。
       「やっぱり」男が即座に答えた。そして男は話を続けた「実は俺も…」
       いまだに、この国にはドラゴンを倒した者はいない。