『テーマ館』 第27回テーマ「ドラゴン」
ペンギンがお気に入り 投稿者:スタァ 投稿日:07月27日(火)01時51分32秒
世間が夏休みに入ってから園内を巡る人の波は途切れる
ことがなかった。
飼育係の広瀬君は、暑さにうだるペンギンたちにどしゃ
どしゃとホースの水をかけてやりながら、あくびまじりに
大勢の客を眺めている。ホースから出る水流は勢い凄まじ
く、ペンギンを涼ませると同時に糞の掃除もしようと目論
んだ広瀬君の射撃は容赦ない。なにせホースの太さは間違
いではない直径10センチ。火事でも消すのかというよう
な大げさな破壊力は飼育係には不似合いな消防署からのお
さがりだった。アデリー・ペンギンは小さくて軽いので、
水が直撃すれば見事なくらい翔んだ。実際柵の外にまで押
し出してしまうことも何度かあったが、ペンギンたちは終
始無表情でそれがかえって慌てているように見え、それを
おちょくるのはけっこう面白かった。
そんなことよりこの隣が問題である。ここペンギンのい
るスペースのゆうに五十倍はあろうかという広大な面積を
持つ敷地には物凄く巨大な動物が飼育されていた。柵の前
には鉄のプレートに泊押しした文字で『ドラゴンDragon・
竜科竜目竜網・生息地/南アフリカ、西表島』と書かれて
ある。見れば今日も茶色くてごつごつした馬鹿みていにで
かいトカゲが、地面をのそのそと這っているのが見えた。
岩山や小川、つり橋にシンデレラ城などが設けられた敷地
内に、無数の土ドラゴンが住んでいる。
「広瀬、もうすぐ時間だぜ。」
背後の鉄製のドアが開いて同じ飼育係が顔を出した。
「おっと、早いとこ退散だ。」
「随分と水をまいたな。」
広瀬君がドアの中に入ると、アナウンスが流れた。
『まもなく、このスペースの動物たちの餌の時間です。心
臓の弱い方や、お子様連れのお客様は、ご覧にならないよ
うご注意申し上げます。』
流れていた客の波が止まり、全員がドラゴンとペンギン
の敷地を隔てる隔壁が開くのに注目する。
習慣化されているのかそれとも匂いに誘われるのか、土
ドラゴンたちは広い敷地の四方から集まってきて、無表情
で逃げ回る餌を捕えては食べた。