第64回テーマ館「竜」



ドラクエの友 ジャージ [2007/01/23 03:46:26]


いつも同じ時間に出勤し、
いつものように、業務をこなす。
右から左への流れ作業・・・
時間がきたら作業終了。

俺が勤めている工場のベルトコンベアのように、
俺の生活は、何も変わることがない。

そんなある日のことだった。
仕事帰りの途中のコンビニで、俺は旧友とであった。
『お!伊藤じゃないか!』
スーツ姿の、いかにもサラリーマン風の男が俺に声をかけてきたのだ。
彼は岩山隆弘――小学校・中学校時代の遊び友達だ。
『ひさしぶりだなぁ』
彼はうれしそうに俺に声をかける。
だが、俺は少し複雑な気持ちだった。

中学まではよく一緒に遊んだ仲だが、
高校からは、学校は別々。
岩山は県内でもトップクラスの進学校に進み、
俺は、あまり成績の良くない者が集まる高校へ・・・
それから俺達は、一緒に遊ぶことがなかった。
その後は親から『岩山君、あの有名な大学に進学したってね』とか、
『あの若さで、一流企業の重役らしいのよ』とか、
『岩山君、結婚したんだって・・・』など聞かされ
そして、俺の出来の悪さを比較する。
要は、俺は『負け組』で、彼は『勝ち組』なのだ。

そんな負い目を受けながらも、
俺は岩山との話を断る事もできず、
『なぁ、一緒に飯でも食わないか?』
と誘われた。

コンビニから歩いて数分のファミリーレストラン。
店に入って、料理を注文するまで、俺は後悔し続けた。

【なぜ、俺は、こんな『勝ち組』のヤツと飯を食わなくちゃいけないんだ。】
【断ればいいだけじゃんか!】

そんな気持ちのなか、俺は一言言葉を出した。
『なぁ岩山、お前結婚してんだろ?奥さんに連絡しなくていいのか?』
『ああ、あれとは別れた。・・・もう2年になるけど』
人事のようにあっさり答えられた。

え・・・

『会社なんて、つまらねぇもんだ。がんばったてさ、オレが離婚したらさ、
「あの人、離婚したんだって」って噂がもちきり、それならまだいいぜ?「あの人、仕
事虫だから、家庭はどうでもいいって考えてたんじゃないの?」なんて言われてよ。挙
句の果てには、上からは「紹介した女性と別れるとはねぇ・・」なんて愚痴言われて』

料理が運ばれてきた。
俺は岩山の話を聞きながら、もくもくと料理に手をつけた。
『・・・今じゃ、ハローワーク通い。』
『仕事・・・やめたのか?』
『おいおい、人の話聞いてなかったのかよ?辞めたさ、あんなとこ!結婚だって、結局
は企業の戦略結婚だったしな。』
岩山は食事を終え、コーヒーを追加注文する。
『そうそう、お前、あれ覚えている?』
『何を?』
『ドラクエ。』
『?』
『ドラゴンクエストだよ!ファミコンの!』

ドラゴンクエスト――1986年に発売されたTVゲーム
そう、21年前・・・俺達が小学4年生の頃、一緒に遊んだゲームだった。
『伊藤!そっちは先行っただろ?!』
『行ってねぇよ!お前の描いている地図がおかしいだろ?』
俺の兄貴が買ったドラクエを、俺は毎週土曜日の昼に2時間だけやることができた。
でも、小学生の俺には難しく、友人の岩山と一緒にやっていた。

『よく遊んでたよなぁ〜』
遠い過去を思い出しながら、岩山は言い、運ばれてきたコーヒーに手をつけた。
『・・・ああ、そうだな。お前のおかげで竜王が倒せた。』
『でも、あれってよ、「世界の半分をくれてやるがどうだ?」って聞かれた時、オレ、
絶対「はい」って答えてたな!』
『ははは!そうそう、お前、「これ、いい話ジャン!竜王の話に乗ろうぜ!」って言っ
てたっけ?!』
『あの時の伊藤、オレに「バカ!俺達は正義のためにここまできたんだ!」って言った
よな』
『お、俺そんな恥ずかしい事言ってった?』

なんだろう。
ここに来るまで、岩山が遠い存在に思えたのに、
今、ドラクエの話をしていたら、すごく近い存在に感じられる。
彼が離婚したから?会社を辞めたから?
違う。
俺達は共に『竜』を退治した戦友だからだ・・・

『オレさ・・・仕事も、結婚も、結局は「竜王」の誘いと同じで、何も考えず、おいし
い方ばかりに釣れれてた・・・いい会社入って、偉くなれば、それでいいと思ってた』
岩山は顔をうつむかせる。
『バカだよな・・・オレ・・・この歳じゃ再就職も難しいのに・・・』
スーツ姿の岩山。今日もどこかの会社に面接に行ったが、結果はあまり芳しくなかった
ようだ。
『俺も真面目に勉強して、真面目に就職の事考えていたら、良かったかもなぁ』
『伊藤は、今何してるんだ?』
『俺か?俺は高校卒業してから、ずっと同じ工場で働いてる。・・・でも同じことの繰
り返しでね。』
『高校卒業してからずっと?!お、お前、それすごいぞ!10年以上も同じところで働
いているなんて!』
意外なところで岩山に褒められた。いままで考えもしていなかった。

話は湿っぽくなったが、結局俺たちは、そのファミレスに4時間近く居座り、
また昔のゲームの話で盛り上がったのだった。

今日も俺は仕事をする。
いつも同じ仕事だ。
でも、
岩山のおかげで10年続けた事に、誇りを持てた。
最近は、「どうすれば、仕事が楽しくできるか」と考えるようになった。
岩山は、今も仕事を探している。
岩山が言うには
「給料や待遇のいい仕事」よりも
「安くてもやりがいのある仕事」がしたいと言う。
今は職業訓練校に通っているようだ。

俺たちが小学生の頃は、ゲームの中でだが、竜を求め戦っていた。
今は「仕事のやりがい」を求め日々暮らしている。

生きていくからには、何かを求めなければいけない。
そして、「竜王」の甘い誘いにのらない、硬い意志がなければいけない・・・。
【人生はまるでゲームのようだ】
と誰か偉い人が言っていた。
そうだな。
俺たちの人生もゲームのようだ。
いうなれば・・・
【人生はドラゴンクエストのようだ】

END


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