第64回テーマ館「竜」



りゅう とぶ ばしょ ジャージ [2007/04/02 23:07:41]


『りゅうとぶばしょ こっかのみちなれど とおるくるまなし われそこにいる』

 なんじゃこりゃ?
 帰宅して自室で着替えていると、意味不明な手紙が僕の机の上に置いてあった。最近
になって、「覆面作家・村総一朗ではないか」という疑いがある父の字。ひらがなだけ
の乱雑な字。
 携帯電話が鳴る。それは父からの電話だった。
「お父さん、あの意味のわからない手紙、お父さんでしょ?」
「あたり。」
「あれ、なに?」
「私がいる場所だよ。お前が『ミステリー小説マニア』なら、私がいる場所ぐらいその
 手紙から推理したまえ。」
 がちゃん・・・つー・・・つー・・・つー・・・。
 なんだよ!期末試験前で忙しい時期に!・・・でもくやしいから何が何でも当ててや
る!僕は父の手紙を読み返した。
 なんだろう?「りゅうとぶばしょ?」・・・竜?「こっかのみち」国道か?うむ、そ
れとも文章自体が暗号なのか・・・。
「この手紙の意味、なんとしてでも解いてやる!おじいちゃんの名にかけて!!」
と、某殺人事件簿マンガの主人公の台詞をパクッてみたけど、謎は解けない。
 その時、玄関から母の声が聞こえた。買い物から帰ってきたようだ。今日はバーゲン
でお気に入りの服が買えたのか、機嫌がよいらしい。母は機嫌がいいと石川さゆりの
『津軽海峡・冬景色』を歌う。・・・ええ、母は津軽の出身・・・。
「ん!・・・もしかして・・・」
 僕はすぐさま母に2、3質問した。やはり、思ったとおり!!ホシはあそこにいる!

「お父さん、僕だけど。・・・そこは『青森県』だね?」
 父と再び電話。僕のはじめの解答に「おおっ」と父の声が聞こえる。手ごたえありだ
な。
「さすがはわが息子。なぜ、私がそこにいると?」
「『津軽海峡・冬景色』の歌詞を聴いて、ある場所を思い出したよ。『ごらん、あれが
 竜飛岬・・・』・・・「りゅう」が「とぶ」と書いて竜飛。その地名がつく場所は青
 森県の津軽半島の竜飛岬しかない!」
 くだらんクイズなのに、気分は探偵。ついつい口調が荒くなる。
「ははは、探偵君。なかなか鋭いね。だが、手紙の文句はまだあるはずだよ?」
「それも解決済みさ。」
「な!なに?!」
 わざとらしい父の声。・・・いま、全世界でこんな馬鹿馬鹿しい会話をしている親子
は僕らぐらいではないだろうか・・・。
「そこには、車の通らない国道があるってね。『こっかのみちなれど とおるくるまな
 し』すなわち国道339号線。別名『階段国道』は総延長388m、階段数は361
 段の道・・・母から聞いたよ。こんな国道じゃあ自動車 どころか、自転車も通らな
 いね。」
「あたり。」
 僕のすばらしい解答うんちくを、父はたった一言で片付けた。こ、このやろう!!
「でも、どうしてそんなところにいるのさ?!」
 ちょっとふて腐れた口調で父に尋ねた。
「ああ、太宰さんに会いたくなってね・・・」
 父の声に元気がない・・・僕はその時嫌な予感がした。津軽出身の小説家・太宰治は
自殺願望があり、5回の自殺未遂の後、6回目に入水心中でこの世を去っている。太宰
の遺書には「小説が書けなくなった」とあったというが・・・もしかして・・・
「お、お父さん!」
「なに?」
「こ、この世から『グッドバイ』は、ダメで、で、です!!」
「は?」
 結局、僕の最後の推理は外れたらしい。父は母と最初に出会った地に訪れているだけ
だという。父も母もただの『太宰治』のファンなのだ。
「・・・と、いう事で、明日の朝10時までに上野に帰ってくる。どうやって帰ってく
 るか当ててみたまえ。」
「寝台特急、北斗星2号上野行き。青森駅を0:11に到着、上野に9時41分着予定
 北斗星4号もあるが、あれは青森を到着しないからな・・・」
「なるほど・・・すばらしい解答だ。さすが西村京太郎ファンだけある。んじゃ、それ
 に乗って帰ると、母さんに伝えておいてくれ。」
がちゃん・・・つー・・・つー・・・つー・・・。
?
僕って、もしかして時刻表代わりにされただけ?

【END】

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