第55回テーマ館「夢」



want to meet. 206 [2004/12/05 01:59:16]


目を閉じてみる。
瞼に浮かぶあなたの姿、変わりない笑顔。
朝、目を覚ますと私は必ずすることがある。
目を瞑り、ある人の姿を思い浮かべるのだ。
そして、その人の姿が寸分違わない事を再任して安心するのだ。
まだ失ってない、忘れてない・・・と。

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あなたが死んでからもう一ヶ月が過ぎました。
色々、ざわついていた周囲もようやく以前の日常に戻りつつあります。
まだまだ後片付けはありますが、それも直に終わるでしょうし、
そろそろ仕事にも復帰しなければなりませんし・・・。
そうそう、先日、後時の報告と仕事の復帰事を伝えに会社に顔を出しました。
久しぶりに会った同僚たちはわざとらしいくらい明るく振舞って私を元気付けてくれま
す。
正直少し迷惑ですが、でも、とてもありがたい事です。
いまさらですが、同僚のありがたみを知った気がします。
上司にも報告と、挨拶をしておきました。
仕事がたくさん溜まっているから早く復帰してくれだそうです。
普段なら簡単に部下を怒鳴りつけるような人だったのに・・・
彼なりに気配りをしているようでした。
会社からの帰り道、気が向いたので貴方とよく行った展望台に足を運んでみました。
途切れることなく行き交う人の波。
都市を縫うように走るハイウェイ。
立ち並ぶビルの向こうに沈んでいく夕日。
世話しなく動き続ける世界。
あなたの居ない世界。
誰かが居なくなったからと言っても、やっぱり世界は留まってはくれないのですね。

ただ、時々、私はいつか私自身があなたの事を忘れてしまうのではないかと心配になり
ます。
夢の終わりと共に少しずつあなたの記憶が溶けてしまうような・・・
そんな不安に襲われるのです。
夢から覚めたとき、それがどれほど悲しい夢だとしても人は忘れてしまう。
そんな時、私は人間と言う生き物である事が嫌になります。
人間は忘れてしまう。
どんなに楽しかった思い出も、
どんなにつらかった思いでも、
どんなに悲しかった思い出も・・・
全部忘れてしまうのだから。
もしも、時間の一枠を切り取って永遠に記憶にとどめることが出来たらどれほど素晴ら
しい事だろう。
無くなってしまったものも、失ったものも、その全てを記憶にとどめて置いて、
記憶の中でいつでも逢うことが出来たなら・・・。

けれど、それが無理だと言うことも分かっているのです。
遣る瀬無いけれど、
それが現実と言うものだって・・・。
ただ・・・

ただ・・・
一つだけ我侭を言ってもいいでしょうか?
もしも叶うなら・・・で構いません。
出来れば、で構わないんです。

それでも私が行き詰まったり、
挫けそうになったら、
貴方の手で、私を抱きしめて欲しい。
夢の中で構いません。
ただそれだけで構わないのです。
それだけで私はまた歩いてゆけるのです。
だって、たとえそれが夢だったとしても。
朝の訪れと共に溶けてしまう儚い夢だったとしても。
貴方に逢えたのだから。

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