『テーマ館』 第16回テーマ「視線」



 ある男の部屋で  by みら


       何かがおかしい・・・・・・。
       鷺沼は、ゆっくりと自分の部屋を見回した。
       狭すぎるぐらい狭い部屋だ。しかし自分の居場所には変わらない。

       常に人の声が聞こえて来る。隣の家の声が聞こえて来るというレベルではない。
       まるで頭の上の方から、直接頭の中に響くように聞こえて来る声!声!声!
       ざわざわという人の蠢く感触・・・・。
       誰かいる。絶対、誰かが・・・・。

       ここは俺の、俺だけの部屋ではないのか・・・・!?
       交通の便を考えて都内に越してきたはいいが、日当たりも悪い、こんな所しか見つからなかった。眠れない。おかげで仕事もうまくいかない。まあ、それはいいんだが。ああ、良くないんだった、それでは。俺は、俺は・・・・。
       
       俺は疲れているのかも知れない、と鷺沼は考える。しかし・・・・・。
       ここ何箇月か眠れないでいた鷺沼の限界は近かった。
       ・・・・・鷺沼は壊れた。
       「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
       手近にあった包丁を掴むと、鷺沼は視線にからまれた忌まわしい部屋のドアを打ち破り、表に飛び出した・・・。


       「五時のニュースです。今日新宿で住所不定、無職の男が包丁を振り回し、約3人が軽い怪我をおいました。男は、鷺沼健一、49歳で・・・」


       新宿ホームレスDさんの話。
       「いや、びっくりしたよ。だってさ、あんた、突然だろう。健ちゃんのこと?知ってるさおとなりさんだもん。エリートだったらしくてねえ。認められなかったみたいでさ、自分がダンボール住んでるの。なんか寂しいはなしだよねえ・・・」

(02月23日(月)14時43分26秒)