『テーマ館』 第16回テーマ「視線」



 鈍いヤツ  by 紅 草希 



       ここは、某私立高校2年1組の教室。
       わたしは誰か? 訊いてもわかんないだろうね。
       わたしはね。ここのイチ女子高生だよ。

       授業中。
       暇なんだよねえ、これが。特に、現国の授業だからさ。
       ――で、わたしは暇つぶしに見ていた。わたしのグループの子を。
       ……全然、気づかないみたいね。振り向いてくれたら、軽く苦笑し合うか手を振
      り合うのに。つまらない。

       チャイムの音。
       起立、礼をして、授業は終わり。わたしは早速友達のそばに駆け寄った。
      「ヒデ。授業中ずーっと見てたのに、全然気づかなかったでしょ?」
       にやにやとした笑みを浮かべ、わたし。
       友人――秀子は少しほうけたような顔をして、わたしを見た。
      「え? 見てたの? 寝てたからわかんなかった、ゴメン」
       寝てたんかい。ずっと見てたわたしが馬鹿みたいだよ。
      「ねーねー、すがっち」
       背後からの声に、わたしは振り返った。
       わたしと同じグループの子、ヒトミがすぐそばに立っていた。彼女の顔は、笑っ
      ている。
       ヒトミの口が、ゆっくりと開いた。
      「すがっち、鈍いねー。あたし、ずっと見てたんだよ」
      「は?」
       一瞬、ヒトミの台詞が理解できなかった。
       後でよくよく考えてみる。
       もしかして、わたしが鈍いヤツ?

(03月01日(日)23時40分39秒)