『テーマ館』 第16回テーマ「視線」



 視線4   by kon


      第16回、にらめっこワールドカップ、フランス大会もいよいよ大詰めです。
      予選リーグに勝ち残った、精鋭たちによる、壮絶なバトルが今始まろうとし
      ています。
      改めてルールをご説明しますと、見つめ合って、先に、笑ったり、目を反ら
      せた方が負けです。

      準決勝は、優勝候補筆頭の、イタリアマフィアの、ロベルト、対するは、
      これまた優勝候補の、ブラジル代表、陽気なカルロスです。
      ロベルトの眼光鋭い視線に対して、むちゃくちゃなジェスチャーで相手を翻弄
      するカルロス、大変面白い対戦になりました。

      『カーン』
       試合が始まりました。おおっと、早くも、カルロスの百面相が炸裂した。
      しかしロベルトも、必死に防戦、おおっと、今度は、ロベルトの逆襲だ。鋭い
      眼光がカルロスを威嚇、そしてすかさず頬をニヒルに歪めた!
      これは、利いた、カルロス、たまらず視線を反らせてしまった。
      意外や意外、カルロスがあっさりと負けてしまいました。
      やはり、「石を抱かせて、大西洋に沈める」という、試合前のロベルトの
      一言が利いたのか!

      たった今、情報が入りました、第2会場で行われていた、イングランド対日本の
      試合は、なんと日本が勝ったとのことです。これは大変なことになりました。
      全く下馬評にも上らなかった、日本が決勝進出です。

      さあ、いよいよ決勝戦です。イタリア代表ロベルトに対して、日本代表の新太郎 が、どこまで食い下がれるのか? 
      『カーン』
      さあ、試合が始まりました。おおっと、これは凄い、いきなりロベルトの猛攻
      だ。鋭い眼光、次いで、哀愁を漂わせた横顔、そして最後に、頬をニヒルに歪ま
      せた。見事なロベルトの三段攻撃。これは決まったか? いや、決まらない、
      新太郎全く動じません。

      試合開始から2時間、どうやら持久戦の様相を呈してきました。両者相譲らず、
      文字通り視力を尽くした戦いとなりました。
      ここまでくると、後は体力勝負、いや、視力勝負です。
      さすがに、ロベルトの眼光にも翳りが見え始めてきました。しかし、新太郎は、
      無表情のまま、ロベルトの視線を受け止めております。
      「Ho paura! Ho paura!」
      おおっと、ロベルトが、何か喚きながら試合会場から出ていってしまいました。
      これは、大番狂わせです。なんと、日本の新太郎が優勝です。
      日本のサポーター達が、試合会場になだれ込み、新太郎を祝福します。

      ええ、勝利者インタビューです。
      「新太郎さん、優勝おめでとうございます」
      「ありがとうございます」
      「すさまじい試合でしたね。どうやら、ロベルトは、長時間の試合のため、
      精神に支障を来してしまったようです」
      「そうですか、可哀想なことをしました」
      「あなたは、ロベルトの視線が怖くなかったのですか」
      「いや、全く怖くありませんでした」
      「本当ですか?」
      「ええ、まあ」
      「日本の神秘、禅のムシンというものなのでしょうか?」
      「いや、そんなものではありません。私には人と違った特殊な能力が備わって
      いるのです」
      「何ですって、一体どのような能力なのですか?」
      「実は、私、目が見えないんですよ」

(投稿者:03月03日(火)23時48分53秒)