『テーマ館』 第18回テーマ「崩壊」
「棒に当たる犬」 by kon
犬も歩けば棒に当たるなどと申しますが、それは本当でございましょうか?
わたくしの長年の観察から申しまして、それはもう、よく観察していますのよ。
え、わたくしが飼っているロンちゃんでございますわよ。そのロンちゃんで
ございますが、毛並みの大変よい柴犬でございまして・・・・。
柴犬は赤犬などと申しまして、戦中派の方なら、よく存じてらっしゃると
思いますが、そう、とても美味しゅうございます。いえ、タクのロンちゃん
は食用ではございません。え、そうそう、犬が棒にあたるという話でござ
いましたね。それが、聞いて下さいまし、うちのロンちゃんを、散歩に連れ
て近所の小道を歩いている時の出来事でございます。雨が降ってまいり
まして、突然の雨でございましょう。傘の用意もしておりませんで、びしょ
濡れになっては大変と、軒下に入った途端、雷様がゴロゴロと、冬だとい
うのに、もう心臓が止まるかと思いましたわ。いえ、雷様と思ったのが、実
は暴走族のオートバイの音だったのでございます。ロンちゃんもびっくり
仰天してしまい、わたくしの足にすり寄ってくる始末。本当に迷惑でござい
ましょう。あんなに大きな音を立てなくとも、え、そうでございましたわね、
犬が棒に当たる話でございましたわね。
ロンちゃんがあまりに、わたくしの、足にまとわりつきますもので、少々た
しなめておかなければと思いまして、こう見えましても、わたくし、ロンちゃ
んの躾は厳しくしておりますのよ。オホホホホ。こらロンちゃん、まとわりつ
くのをおよしなさい。わたくしは、そう申しましたが、ロンちゃんは、一向に
わたくしの足からはなれようとはしませんの、わたくし、なんだか哀れに思
えてきまして、急に抱きしめてあげたいという衝動にかられましたの、この
気持ちは、ペットを飼っていらっしゃる方になら分かって戴けると思います
わ。でもわたくし、ここで我慢しなければ、と思いましたの、わたくし、心を
鬼にして、ロンちゃんおやめなさい。やめなさいロンちゃん。おやめ。おや
めなさいったら。こらやめなさい。やめなさい。こらやめるんだよバカ犬。
あら、わたくしとしたことが、オホ・オホホホホ。 ロンちゃんもわたくしの気
持ちが通じたのか、おとなしく足下にうずくまりましたの。
雨も止みまして、おうちに帰ろうと、私共は、軒下を後にしましたわ。ロン
ちゃんは、クンクンなどといいながら、わたくしの後についてまいります。
おお、よしよし。なんて可愛いロンちゃんなんでしょう。わたくし、ロンちゃん
がいとおしくてたまらなくなり、ロンちゃんの頭を撫でてあげましたの、する
とどうでしょう。ロンちゃんたら、わたくしの手をガブり。飼い犬に手を噛まれ
るとはこのことですわ。わたくし、怒り心頭してしまい、ロンちゃんを怒鳴り
つけましたの。こらロンちゃん、手を放しなさい。手を放しなさいったら。放
すんです。放すのよ。お願い放して。
わたくしは、腕を思いきり、振り回しましたわ。それでもロンちゃんたら、
宙吊りになりながら、遠心力にも拮抗して、ぐるんぐるん回って、わたくし
の手を放そうとはしませんの。
ロンちゃんの犬歯は、わたくしの手の肉に深く食い込み、軟骨の辺りをコ
リコリいわせています。わたくし痛さのあまり、悲鳴を上げてしまいました
の。あれ〜・痛い〜・痛い〜・あれ〜。わたくし気が動転していたのでござ
いましょうか。近くに落ちていた棒切れで、ロンちゃんの頭を叩いていまし
たわ。これでもか、これでもか、これでもか、これでもか、と殴っていまし
たわ。グニャと鈍い音がしても、これでもか、これでもか、これでもか、こ
れでもか、と叩き続けましたの。気が付いてみるとそこには、ロンちゃん
の悼ましい姿が、横たわっていたのでございます。
わたくし泣きました。大声で泣きました。泣いて泣いて泣き続けました。
可哀想なロンちゃん。頭はザクロのように割れて、血が吹き出してペナペ
ナの脳味噌が、アスファルトの道路に流れ出しています。おお、なんて可
哀想なロンちゃんなんでしょう。悲しいわ。悲しいわ。本当に悲しい。悲し
いったらありゃしない。この棒のせいだわ、みんなこの棒が悪いんだわ。
悔しい、キッ。叩いてやる。叩いてやる。みんな叩いてやるわ。おもいっき
り叩いてやるわ。叩きのめしてやるわ。叩いてやるのよ。
わたくしは、棒をしっかりと握りしめ、犬が来るのを待ちかまえています。
ロンちゃんの復讐をするために。
(投稿日:04月20日(月)23時23分25秒)