『テーマ館』 第18回テーマ「崩壊」



 「Gショックには及びもせぬが」   by 遊牧家族


      まだ僕が小さかった頃、あるとき母が旅行のお土産に、腕時計を
      買ってきてくれた。
      ガタイのいい文字盤のまわりに、いくつもキーが並んでいる黒
      い時計。キーの下に"BGK""HNL"のように、ローマ字で注訳が
      付いている。実を言うと、これは世界時計だった。
      「世界の時間が手元で分かる」今では至極当然のことになって
      しまったが(僕の電子手帳にもついている)、無邪気な−悪く言
      えば幼稚な子どもにとって、それは未来の香りたつ「夢」のもの
      だったに違いない。
      そんなある日・・・時計が狂った。
      時刻をあわせようと奮闘する家族の傍らで、僕はまるで世界崩
      壊の時が来たかのように泣きわめいていた。デジタルの目盛り
      が、時限爆弾のカウンタに見えたのかもしれない。
      それから時計が直ったのかどうか、よく覚えていない。
      問題の時計も、何年か前まで家にあったのだが、今はどこにあ
      るのやら、まったく見当が付かない。
      もしかしたら、まだどこかで刻み続けているかも知れない。世界
      崩壊までの時間を・・・

      (このお話は、最後の2行を除いてノンフィクションです)


(投稿日:05月05日(火)08時27分06秒)