『テーマ館』 第13回テーマ「もしも・・・」



 「からっぽな魔法瓶に酸を垂らして微笑むぼくに、
          いつも空虚なぬくもりをくれる優しい人へ」
                         ACID


(幻想色の偏光レンズが邪魔をして、虫喰いのぼくは七色にひかる。)


 アタマのなかにはクスリがあって、赤や青や緑色をしたしゃぼん玉を弾ませている
ぼくを見るときの彼女は、いつも哀しそうな形に目を歪ませている。
 彼女の瞳に浮かぶぼくは、それとおんなじように形を歪まされてしまっていて、決
してぼくの形をしていない。彼女の屈折したレンズから侵入するぼくは、このぼくと
おんなじ形で彼女の中心まで届くことはありえないみたいだ。
 彼女の中心にたたずむぼくは、いつでもこのぼくよりも一層寂しげで、それでいて
ぼくよりもなおぼくらしい自然な形をしている。
 彼女の瞳に跳ね返るぼくは、こんなぼくではありえないみたいだ。
 あなたは優しい人ね、と微笑む彼女。
 その視線の先にいるモノは、ぼくでありながら、決してぼくではありえない。 


(たたずんでいるここがたとえば奇麗な湖畔でもあれば、あるいはそれでも良いのか
もしれない。)


 アタマのなかにはクスリがあって、虹があって、虫があって、生命があって、死が
あって、そんなものと戯れているぼくを見るときの彼女は、いつも虚ろな視線を床に
突き刺しているだけでこちらを見てはくれない。
 ぼくを見ようとはしない。
 現実を、見つめようとはしてくれない。
 奇麗にフリーリングされた床の木目に反射したぼくを見て、彼女はなにを思ってい
るのだろう?
 なにも思ってはくれていないのだろうか?
 わからない。
 わかろうとしても、わかることができない。
 ぼくには、彼女のなにも跳ね返ってはこないのだから......彼女のなにも、ぼくにはわ
かることができない。
 あなたと、ずっと一緒にいたいな。
 彼女の囁やいてくれるそんな言葉が、心に染みる。
 でもね。ぼくの心に、木目はないよ。
 彼女に、ぼくは視えていない。


(からっぽな魔法瓶に酸を垂らして微笑むぼくに、いつも空虚なぬくもりをくれる優
しい人へ。)


 アタマのなかにはクスリがあって、いつもそこにいるハズの彼女なのに、ぼくのア
タマのなかにだけ彼女は決して存在しない。
 太陽の存在しない"そら"の寒さと空しさとを思って怯えるぼくに、いつも不思議な冷
たい光を降らしてくれる優しい彼女......奇妙なプリズムに乱反射する彼女の姿は、たと
え宇宙のどこにいたってぼくの視線にまっすぐ素直に写るのに、ぼくが彼女に触れる
ことはどうやら決して出来ないらしい。
 悔しいなって、そう思う。
 そんな気持ちはぼくにもあるよ。 
 ぼくのアタマのなかが逃げ場のない鏡だらけの魔法瓶のようなものであったならっ
て、そんなもしもを考えたりもする。そうすれば、ぼくのアタマのなかにでも、きっ
と彼女を閉じ込めることが出来るのにって。
 もしもさ。
 もしも、それが叶うならさ。
 ぼくは、それだけで満たされるのにね......。

 
(ぼくの内側にきみがいたらって、そんなことを思っただけだよ。)
<12月15日(月)22時48分26秒>