第71回テーマ館「意外な犯人」



○○番目の密室 しのす [2008/10/26 15:12:10]


 「やあ、今日はこの前約束した、奇妙な密室の話をしよう」と酒場で飲んべえの細野先
生が話しかけてきた。
「その前に一杯おごってくれ」

 「わしがミシシッピーで開業医をしていたことは知ってるな。
そこで起こった奇妙な事件の話をしよう。でもまずその前に一杯ー」
 「もうおごりました。話したらまたおごりましょう」
 「…そうか。ちゃっかりしとるな。じゃ、せめて枝豆でも頼むか。
なんならししゃもと冷や奴と焼き鳥も」
 「ご自分で払うんでしょうね」
 「…いや、あんたが食べるかな、と思ってな。そうそう早いとこ話してしまおう。
あれはわしがオクラホマで病院に勤めておった頃のことでー」
 「さっきはミシシッピーと言っておいでましたが」
 「まあ、そうとも言う」
 「言いませんが」
 「もう、どこでもいいじゃないか。そうやって人の話の骨を折ってばかりで。
わしの話を聞きたいというから話してやろうと思ったのに。やめたっ」
 「先生、話は骨ではなくて、腰を折るです」
 「そうか、腰を折ったのか。それは痛かったな。わしが治してやろう」
 「結構です。で、話の続きはどうなりましたか」
 「そうそう、わしが、えっと、アメリカで医者をしとった時に起こった
不思議な事件の話じゃ。
森を抜けて広々としたところに家があってな。
初めてそんなところに家があることに気づいたんじゃが、
その家の中を見ると、中はバタバタじゃった。
そしてなんと家の中になんと死体があったんじゃ。
ボコボコに殴り殺された、って感じじゃった。
サンドバッグみたいにボコボコに殴られた様な感じじゃった。
三度殴られただけではなく。
初めて見る住人じゃった。
サンドバッグみたいに殴られたけど、三度だけではなく、え〜っ」
 「っておでこに手をやって、ここは笑えっとことですか」
 「いや、別に。で、死体が発見された時の状況が奇妙じゃった。
あんな体験は二度ないだろう。ノーモアだ。野茂英雄だ。
ノーモアだ。野茂英雄だ」
 「二回繰り返しても全く笑えませんが」
 「わしは別に笑いをとるために話とるわけではない。
あんたがなんか面白い話をきかせてほしいと言うからイヤイヤ話とるだけじゃ。
そんな態度ではもう二度と話さんぞ。ノーモア、野茂英雄じゃ」
 「で、どんな奇妙な状況だったんですか。
ショートショートなんだから、もっと簡潔に話してください。
ダラダラと書いていてこの長さになってくると嫌気がさしてきますから」
 「ショートショートって何の話じゃ。
まあ、よい。とにかくわしが第1発見者じゃったんじゃ。
入口には鍵がかかっていなかったが、その家に入った足跡が一つもなかった。
あたりは広々とした場所で木一つなかった。
その家に入るには必ず足跡がついたはずじゃ」
 「雪でも積もっていたんですか」
 「いや、家のまわりは浅い沼地じゃったんだ。
というか浅い沼地の真ん中に家があったんじゃ。
家に入るには、必ず沼地に足跡が残るはずじゃろ」
 「…沼地の真ん中に家を建てたんですか」
 「奇妙じゃろ。あんたの好きな密室じゃ。前例はあるかのう」
 「…そんなでたらめな話、聞いたことないです」
 「続きが聞きたいか」
 「…いえ」
 「聞きたいか」
 「…はい」
 「ノドがかわいたなぁ。おや、グラスがからっぽじゃ。枝豆も食べたのう」

 「うまいのぉ。ししゃもも追加してもいいか。だめか。
じゃあ、続きだな。ミシシッピーとオクラホマと野茂英雄の関係は知っとるか。
球団じゃと。
…野茂がどこで投げとったか、ドジャーズ以外忘れてしまったな。
引退してもう二度と投げないけどな。野茂ノーモアじゃ。
え、共通点じゃと。
それは、…ZZZZZ」
 「寝るなっ」
 「年をとると眠くなってな。共通点じゃったな。
それは、…ZZZZ」
 「二回も寝るなっ」
 「さっきよりZが一つ少ないのに気づいたか。気づかんかったか。それは残念じゃ。
で、共通点じゃな。
それは、
トルネードじゃ。大竜巻じゃよ。
家は、大竜巻で飛ばされて沼地に落ちたんじゃ。
壊れもせずにな。
竜巻で振り回されとる時に家の中の物がとびまくり、
家の住人は壁にぶつかりまくり、
サンドバッグなみに打撲を受けて死んでしまったというわけじゃ。
そうして奇妙な密室の状況ができたというわけじゃ。BBQ」
 「QEDです。でもそんな馬鹿な話、ありますか。竜巻で家は壊れるでしょ」
 「それが壊れなかったから、奇妙な状況ができたわけじゃ。わしのせいじゃない」
 「家が簡単に飛びますか」
 「それが飛んだんじゃ。そしてかわいそうにトトは」
 「トト?」
 「そう、犬のトトじゃ。犬小屋が飛んで、家の中の毛布やえさ入れはバタバタになり、
犬のトトは打撲で死んだんじゃ」
 「でも、死体って言いましたよね」
 「死体は、動物の死体も死体と言うって、wikipediaにも書いてあるぞ」
 「…」
 「話したからもう一杯頼む。今度来た時には、
別の家が巨人によって踏みつぶれたような奇妙な状況だった話をしてやろう」
 「…まさか、ゴキプリホイホイを人が踏みつぶした、というのではないですよね」
 「…ZZZ」

戻る