第71回テーマ館「意外な犯人」



○○+1番目の密室 しのす [2008/12/26 15:12:10]


 「やあ、今日はこの前約束した、ゴキプリホイホイを人が踏みつぶした話をしよう」
と酒場で飲んべえの細野先生が話しかけてきた。
「うん?間違えた。まあ、いい、とにかく一杯おごってくれ」

 「わしが富士山の近くで開業医をしていたことは知ってるな」
 「外国で開業医してたんでないんですか」
 「いや、わしは日本人じゃけん、日本で開業しとったばってん。
そこで起こった奇妙な事件の話をするけん、じゃがまずその前に一杯ー」
 「もうおごったでしょ。話したらまたおごりましょう」
 「…そうか。ちゃっかりしとるな。じゃ、せめて里芋の煮っこがしでも頼むか。
なんなら牛すじと牛のタタキと刺身の盛り合わせでも」
 「なんか値段高いものになってきてますよ。ご自分で払うんでしょうね」
 「よろこんで、って…いや、あんたが食べるかな、と思ってな。
そうそう早いとこ話してしまおう。
あれはわしが浅間山で病院に勤めておった頃のことでー」
 「はいはい」
 「そこは「さっきは富士山と言っておいでましたが」、ってつっこむところじゃが」
 「まあ、そうとも言いますから」
 「言わんぞ」
 「もう、どこでもいいじゃないですか。そうやってダチヨウばかりで。
先生の話を聞いてほしいというから聞いてあげようと思ったのに。やめたっ」
 「ダチョウでなくて、脱腸じゃぞ」
 「脱線でしょ。底抜けに脱線ゲームですね。
そんなだから「細野先生にいらっとした」ってコメント書かれるんですよ」
 「なんじゃ、コメントって」
 「いえ、こっちの話です」
 「「細野先生のとぼけたキャラも可笑しくて、
楽しませてもらいました」とも書かれたぞ」
 「…で、話の続きはどうなりましたか」
 「そうそう、その筑波山の近くで、第3回世界名探偵会議が開かれてな」
 「いきなり世界名探偵会議ですか」
 「第1回はインドで行われたが、第3回は日本じゃった。
わしも呼ばれてな。わしの他には多くの二流の探偵たちが来とった」
 「え、だれが」
 「うーん、クイーンとか、ポワロとか、ブラウン神父とかいう奴らとか、
養蜂業の引退生活を楽しむベーカー街の老人とか」
 「それって超一流じゃないですか。
ていうかハイデンフェルドの「引き立て役倶楽部の不快な事件」を読んでないと
めちゃくちゃわからない話、してませんか」
 「なんじゃ、それは。読んでなくても大丈夫。全く関係ない話じゃ。
とにかく世界名探偵会議が行われている時に起こった不思議な事件の話じゃ。
近くの森に脱走犯が逃げ込んだという通報があってな。
犯人を捕まえる手伝いをしてほしいと、昼食後の休憩中に依頼があったんじゃ。
確か名前はジャックザリッパー」
 「え、日本の刑務所にいたんですか。しかも時代考証まるでなってないし」
「とにかく腹ごなしに良かろうということで、世界の名探偵たち数百人が

森の周りに輪になって、だんだんと輪を縮めていったんじゃ。
そうして最後に森の中心で愛を叫ぶじゃ」
 「えっ」
 「いや、森の中心の巨大な木の下に頭を潰されて死んどる脱獄犯を発見したんじゃ。
しかし脱獄犯が森に入ってから、誰も森からは逃げ出さなかった。
なにしろ天下の名探偵たちが包囲して、だんだんとその包囲網を
縮めていったんじゃからな」
 「木の上に隠れていたとか」
 「それはない。相手は名探偵じゃぞ。見逃しはせん」
 「数百人もいたんだから、名探偵に紛れ込んで逃げたとか」
 「それもない。相手は名探偵じゃぞ」
 「数百人全員が包囲したまま森の中心に集まるととんでもないことになりませんか」
 「もちろんだんだんと人は減らしていったぞ。竹内のみそまんじゅうじゃないんじゃから」
 「…それって、もしかして「おしくらまんじゅうじゃない」って言いたかったんですか。
めちゃくちゃローカルなボケですし、意味も不明ですけど」
 「とにかく死体だけあって、犯人がいないという奇妙な状況だったんだ、
どうだ参ったかっ」
 「参りはしませんが、ショートショートなのに、この長さ、もう嫌気がさしてます」
 「ショートショートって何の話じゃ。
まあ、よい。とにかくわしは第1発見者の一人じゃったんじゃ。
そこでベーカー街の天才が「初歩的な事件だ」と言い、
ブラウン神父が「木は森の中に隠せ。凶器が大きすぎて見えないのです」と言い、
「あのー、犯人わかっちゃったんですけど、なんじゃこりゃあ」と柴田純が言い、
「BBQ」とクイーンが言い」
 「QEDです」
 「そして探偵達は去っていた」
 「去っていったのか」
 「事件は解決したんじゃ。で、続きが聞きたいか」
 「…いえ」
 「聞きたいか」
 「…はい」
 「ノドがかわいたなぁ。おや、グラスがからっぽじゃ。里芋も食べたいのう」

 「うまいのぉ。牛すじも追加してもいいか。だめか。
じゃあ、続きじゃな。
富士山と筑波山の共通点は知っとるか。
え、共通点じゃと。
それは、…ZZZZ」
 「寝るなっ」
 「年をとると眠くなってな。共通点じゃったな。
それは、…ZZZZZ」
 「二回も寝るなっ。ていうか、前回のコピペ、やめれっ」
 「こぴぺとは何のことじゃ。ざこばみたいな落語家か。
とにかく富士山と筑波山の共通点は、
ダイダラボッチが作ったということじゃ。
森の中心にあった巨大な木は、ダイダラボッチの足じゃったんじゃ。
脱獄犯は、巨人に頭を踏みつぶされたってわけじゃ。
ゴキプリホイホイが人に踏みつぶされたようにな。
ダイダラボッチが犯人じゃ、名探偵もお呼びじゃない。
しかも被害者は脱獄犯じゃったし。
そうして奇妙な状況ができたというわけじゃ。GHQ」
 「QEDです。でもそんな馬鹿な、そんな巨人がいたら誰もが気づくはずでしょ」
 「だから大きすぎて見えなかったんじゃ」
 「…」
 「話したからもう一杯頼む。今度来た時には、
家に入った少女が二度と出てこなかった奇妙な状況の話をしてやろう」
 「…まさか、Drink Meと書かれた瓶の液体を飲んで小さくなって、
出て行ったのが見えなかった、というのではないですよね」
 「…ZZZZZ」


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