第49回テーマ館「無実」「おれは無実だ」



俺は無実です
 投稿日 2003年5月31日(土)07時32分 投稿者 しのす 



「俺は無実です」
「まて。君は、5月25日午前8時15分に金町のコンビニ「ドーソン」で抹茶に
ぎりを買っただろう。その事実は認めるな」
「ええ、その通りです」
「そうだ。君は二つしか残っていなかったおにきりの抹茶にぎりと、生牡蠣にぎり
のどっちを買おうか迷ったあげくに、抹茶にぎりを選んで買った。そうだな」
「二つしか残っていなくて、どっちかといったら抹茶にぎりの方がいいかと…」
「君は抹茶にぎりを選んだ。故に、君は有罪なのだ」
「…どうして?」
「君は抹茶にぎりを選んでしまった。その結果羽佐辺は最後に残った生牡蠣にぎり
を買わざるを得なかった。生牡蠣にぎりを食べた羽佐辺は腹痛に襲われた。車を運
転中に急激な痛みを感じて運転を誤り、高部をはねてしまった。高部は仲町病院に
入院し、そこで看護士をしていた中瀬と出会った。中瀬とは高校時代つきあってい
たのだが、再会したことによって、また看護し、看護されるという関係から過去の
関係が再燃した。だが中瀬は結婚していた。不倫の関係はすぐに中瀬の夫の知ると
ころとなり、夫は高部をナイフで刺し殺した」
「…じゃあ、中瀬の夫が有罪じゃないですか」
「いや、違う。君があの時、抹茶にぎりではなく、生牡蠣にぎりを選んでいたら、
羽佐辺は腹痛にならず、高部をはねず、高部と中瀬が出会わず、中瀬の夫は高部を
殺さなかった。つまり、君のせいで高部が殺された。君こそが有罪なのだ」
「…しかし」
「しかしもかかしもない。君があの日、残っていた抹茶にぎりと生牡蠣にぎりの両
方を買っても事件は起きなかった。シュークリームとコーヒーゼリーを買わずに、
にぎりを二つとも買ってしまえば良かったんだ。だいたい君はいったん二つとも持
ち上げたのになぜ生牡蠣にぎりを棚に戻したんだ?」
「…ていうか、俺の行動をよくそこまで知っていますね」
「私もたまたまあのコンビニにいたんだ。私は君より先になまこにぎりを二つ買っ
た。そしてあと抹茶と生牡蠣しか残っていないことも目撃している」
「…あなたは四つのおにぎりのうち二つ買ったんだ。あなたが四つとも買っていれ
ば、俺は抹茶にぎりを買わず、羽佐辺も生牡蠣にぎりを買わなかった。そしたら羽
佐辺は腹痛にならず、高部をはねず、高部と中瀬が出会わず、中瀬の夫は高部を殺
さなかった。つまり、あなたのせいで高部が殺された。あなたこそが有罪じゃない
ですか!」
「…そうか、私が有罪だったのか」

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