第87回テーマ館「携帯」



最後の手 しのす [2014/06/14 22:41:12]


 取調室。
「お前が高橋さんを殺したのは明らかだ。吐け」と浅田刑事が怒鳴った。
「知りません」無表情な男が言った。
「高橋さんが殺された時刻にお前が高橋さんの家を出るところを目撃されてるんだ」
「知りません」
「現場に落ちていたハンカチ、これ、お前のだろ」
「知りません」
「知りません、ばかりで逃げ切れると思うなよ」浅田刑事は両手で机をたたいた。
「まあまあまあ」と伊藤刑事が抑えた。
「どうだ、一服やるか。証拠はあがっているんだ。
ここでしらを切り通すよりも話して楽になった方がいいよ」
「知りません」
「お前〜」と浅田。
「まあまあ」と言うと、伊藤刑事は携帯を取り出した。
「これ、君のかな」
男は体を携帯の方に乗り出して、席に戻ると、「知りません」と言った。
「そうかい。いまどきの携帯は落としても大丈夫らしいな」と刑事は携帯を落とそうとした。
「あっ、それは最新型の携帯で、ちょっとやそっとの振動では壊れない。落としても壊れ
ないけれど、そこはやはり精密機械なので」
「やはり、君のか」
「…知りません」
「そうか。浅田、お前、野球部のエースだったな」
「ええ」と浅田刑事。
「この携帯を壁に投げつけてみな」
「この携帯をですか」と浅田刑事は携帯を受け取った。
「や、やめろ。それは発売日一週間前から並んで買った最新型の携帯なんだ。壁に叩きつ
けるなど絶対に許さない」
「君のかね」
「……知りません」
「そうか、浅田、やれ」
「待った。待った。私のです」
「じゃあ、高橋さんを殺したのもお前だな」
「………知りません」
「浅田」
「そうです。私が殺しました。だから携帯だけは…」
「じゃあ、しっかりと吐いてもらおうか」
「はい」

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