第66回テーマ館「殺人鬼」



殺人者、求む しのす [2007/08/19 07:20:14]


 「大川幼女連続殺人って、実は俺の仕業だったんだ」と男はにやけながら話した。
「あとは新宿ロリータ連続殺人と、埼玉のスイカ畑に美少女の首が転がっていたスイカ畑
の殺人鬼ってやつ、あれも俺、すごいだろ」
 そして男は、けけけと笑った。
 「遠山の女子高生切り裂き魔も、君か」同じ部屋にいた銀縁眼鏡の男が冷静に言った。
 「実は、そうなんだ、けけけ」男はうれしくて仕方がないといった様子だったが、
急に真面目な顔になって、
 「でもこれだけしゃべっても俺を捕まえるってことないんだろ。
だって裏警の面接なんだからさ」

 男が言った「裏警」とは、「裏警察」の略だった。
 国家公安委員会では、異常犯罪の多発から、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター
にならって、殺人者を裏の警察として雇うことにした。
 餅は餅屋で、殺人者は殺人者の心がわかるだろうという理論だ。
 そこで秘密裏に「裏警」を募集した。
 殺人者は申し出てもその申し出で逮捕はしないという約束と、莫大な報酬がもらえると
いうことで募集をかけたが、どこで聞きつけたのか、たくさんの殺人者たちが集まった。

 「もちろん、約束ですから、逮捕しません」と銀縁眼鏡の男は答えた後、イヤホンの声
に耳を傾けた。
 それから男を見ると言った。
「面接の結果ですが、残念ながらあなたを採用しません」
 「そうか。ま、それならそれで。でも本当に逮捕しないんだろうな」
 「政府の言うことに間違いありません。あなたがこの部屋を出ると同時に、あなたが
ここで話したことを我々は完全に忘れ去ります」

 「ロリコンの殺人鬼じゃあねえ、腐っても裏警察だ、許せネェよな」
 マジックミラーの反対側で面接の様子を見ていたカエルのような顔をした男が言った。
 「ふふふ」黒いサングラスの男が笑った。
「じゃあ、殺ってもいいすか」
 「君は政府要人を自殺に見せかけて殺してきたエリートの殺し屋で、裏警のホープだ。
我々はあいつのことを完全に忘れ去ったが、君があいつを殺すことを止めはしない。
あいつには逮捕しないと約束したが、殺さないとは言ってない」
 カエルのような顔をした男は笑った。
 「ふふふ、日本の警察もワルですね」
 「お前も政府公認で人を殺せるから、うれしいだろうが」
 「ふふふ」黒いサングラスの男は、ゆっくりと立ち上がった。

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