第66回テーマ館「殺人鬼」



ブギーマンを待ちながら。 是雪 [2007/08/21 18:52:17]


二人で大人しくケーキを頬張りながら映画を見ていると「あぁ、なんて平和なんだろ
う」と思う。

その彼女は、オレの方に分がある喧嘩で損ねた機嫌をとるべく、行きつけの洋菓子店に
てオレが買ってきたかぼちゃのケーキを、頬張りつつ画面を見つめ続けている。
彼女が見つめる画面ではギャーとかキャーとか叫びながら人が殺されていく。
そりゃあもう理由もなく血しぶきあげながら。
なにが楽しくてハロウィンの度に復活する殺人鬼の映画なんかをみなくちゃいけないん
だ。
「あのさぁ・・・」
声をかけると夢中になっていたのを邪魔されて一気に不機嫌顔になった彼女に「な
に?」と聞き返された。
「なんで、ホラーを怖がるわけでもない女の子とこんな映画見なきゃいけないわけ?」
「いいじゃん面白いじゃん。」
「・・・・・・・・・・オレ別にホラー好きじゃないんだけど」
「前にも見たって言ってたじゃん」
「あのさ、こういう映画はキャーとか言って怖がってくれる女の子と見るから面白いん
であってさ。君、怖がってくれないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あ。やばい地雷踏んだ。
「だーったらそういう可愛げのある反応すること遊びに行けば!?私みたいなのじゃな
くてさあ!!」
「ごめん、そういうつもりで言ったんじゃなくて」
「いやいやいや、私は気にしませんけど?あなた様はおモテになるようですし?ワタク
シみたいな子供じゃなくて可愛げがあって、鬱陶しくないオンナノコと付き合えばよろ
しいんじゃなくてぇ?私も他にいくらでも相手はいますから!!」
「あ、そんな事言うんだ。じゃぁ本当にオレがそういう子と遊びに行っても文句言わな
いんだな?」
「えぇ、えぇ文句は言いませんとも。ただしウチの地方紙の朝刊一面飾らすからな!!
『女子高生現役警察官幹部刺殺!!』って!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・オレ殺されちゃうの・・?」
「別にそっちを殺さなくてもいいけど、私以外の愛人は殺すかもね。で、三流ブンヤが
喜びそうなネタを提供しますよ。『愛憎のもつれに!!女子高生連続殺人鬼の素顔に迫
る!』とか」
「・・・・・・・いや、本当にごめんなさい。オレの失言でした。すみませんでし
た。」
「いえ?別にっ!!怒ってませんし!」
「ほんっとーにごめん」と言いつつ抱きしめると「あーずるい。大人ってこんな手使っ
て子供のこと懐柔しちゃうんだー」と彼女が呟いた。
「懐柔されてくれました?」
「懐柔されてあげました。」

二人で大人しくケーキを頬張りながら映画を見ていると「あぁ、なんて平和なんだろ
う」と思う。
オレの所にブギーマンは来ない。・・・多分、恐らく。オレが浮気をしない限りは絶
対。


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