第66回テーマ館「殺人鬼」



殺人鬼の恋人 ジャージ [2007/09/29 00:11:41]


男は己の理想の美女を望んだ。
すらりと長い足の女性、ふくよかなで、形の良い胸の女性、
細く美しい指の女性・・・
男は、己の理想の女性を「作り上げる」べく、
今日も、女を殺める―――

「・・・ま、いいんじゃない?」
 タバコをふかしながら、作家・吉村理沙はサラっと言った。
「まぁ、最近は『猟奇殺人』的なストーリーが売れるからね。」
「ええ・・・そう思いまして・・・」
 今にも消えそうな声で、男が理沙に答えた。
 男の名は北川俊作―――理沙の弟子であり、『ゴーストライター』でもあった。
 派手な理沙に対して、北川は身なりも正確も地味なタイプであったが、その才能はずば
抜けており、理沙としては「良い金づる」としか存在を認められていなかった。
「まぁ、アンタが『あなたのファンです』ってきた時は、正直キモイって思ったけど、
 これだけの作品が作れるなら、『いつかは』デビューさせてあげるわ。」
 理沙は吸い終わったタバコを、近くにあったアニメキャラクターのフィギュアの頭部に
擦り付けながら言った。
 北川は黙ってそれを見つめていた。
「アンタも私の『弟子』なら、こんな人形集めの趣味やめてよね!」
「・・・はい。」
 売れっ子作家の弟子、しかも『ゴーストライター』でありながら、北川に支払われる給
料は月10万程度。家賃4万円の汚いアパートに住みながらも、フィギュアに囲まれた生
活は、密かな喜びであったが、贅沢な生活になれた理紗にとっては不快極まりない場所で
あった。
「そもそも、なん で、今回に限って私がアンタの家に来なくちゃいけないのよ!」
 カツラをし、サングラスをかけ変装をしてきた理沙は不満を北川にぶつけた。
「いつも原稿はメールでって言ってるでしょ?!」
「そうですね・・・でも、お電話でお話したとおり、今回の作品は『特別』なんです。」
 北川は詫びる表情もなく、彼なりに力強く答えた。
「『作品』の為に先生に、是非お会いしていただきたい方がいまして・・・」
「誰よ?」
 不機嫌な理沙を尻目に、北川はゆっくり立ち上がると押入れの戸を開けた。

 そこには1人の『女性』が座っていた。

 部屋全体が暗くてよく分からないが、等身大の『人形』に見えたが・・・
「ちょ・・・」
 理沙の顔は一気に青ざめた。
「先生、紹介します。僕の彼女『エリカ』です」
 北川は誇らしげに理沙に言った。そう、まるで自分の『本当の恋人』を紹介するかのよ
うに・・・。
「もしかして・・・都内の女性連続殺人事件のはん・・・」
 理沙は言葉が終わらないうちに、何か硬い物で殴られ、そのまま意識をなくした。

「先生、僕ね、先生の『手』が好きなんだ。・・・だから『エリカ』にあげてよ。きっと
 彼女喜ぶと思うんだ・・・」

男は、己の理想の女性を「作り上げる」べく、
今日も、女を殺める―――

END






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