第65回テーマ館「図書館」



究極の図書館がオープンしたそうで しのす [2007/04/09 06:33:21]


 究極の図書館がオープンしたそうで、
顔なじみのレストランの主人が興奮しながら説明した。
 「いやあ、さすが究極だぜ。あんなすごい図書館なら何度でも行きたいよ」
 「え、どんな感じ」僕もちょくちょく図書館を利用するので、興味があって尋ねた。
 「中に入ると、個室がたくさんあるんだ。パソコンがあって、部屋に入って
機械に貸出カードをセットすると、IDとパスワードを入力する画面が出る。
それを入れると、画面にきれいな女性の姿が映って
「ようこそいらっしゃいました」と言ってくれる。
同時にドアはロックされるんだ」
 「きれいな女性って、コンピュータグラフィックか」
 「そうらしいな」
 「俺は実物の女性に言ってほしいけど」
 僕は、よく行く図書館の清楚な司書を思い浮かべた。
 「でも本物の人間みたいなCGなんだ。不自然さを感じないし、感じもいいし。
で、「本をお探しですか、それとも情報をご相談ですか」、って聞いてくるんだ。
それに対してキーボードで打ってもいいし、音声入力も可能なわけ。
本は全てデジタル化されていて、その場で読めるし、必要なら選んだ本を出してくれる
し、
複写もしてくれる。当然貸出・返却もできるようになってる。
将来的には、わざわざそこへ行かなくても、ネットで読みたい本は
全て読めるようになるらしい。ただし画面で読むより、実際に本で読みたい人や
ネットを使えない人のために図書館はなくならないそうだ」
 「ふうーん、すごいなぁ」
 僕は図書館云々よりも、珍しくしゃべりまくりの主人の興奮状態に感心していた。
 「で複写した分のお金は、自動的に引き落とされる。また情報を相談した分も、
引き落とされる仕組みさ」
 「引き落としって、銀行口座の登録が必要なのか。しかも情報の相談にも金を取るの
か」
 「情報の質によるよって価格が違うようだどさ」
 「でも図書館って無料で情報を提供してくれるんじゃなかったのか」
 「無料?とんでもない。この九局図書館は、有料だよ。会員制なので、
登録から金がいる。貸出にも一冊いくらって決まってる。図書流通サービスの
九局が始めた民営化の図書館なんだ」
 「金出して、図書館で本借りたりするのかよ。バカらしい」
 「でも行政はどこも、もう図書館から手を引いたんだよ。一部の利用者だけのために、
税金から高い金を出すわけにはいかないし。無料貸本屋という非難も殺到しているしさ。
利用したい人だけが、金を払って登録して利用できる図書館なんだ。
だから究極の図書館なのさ」
 「んな馬鹿な」
 「今に図書館は、全部九局図書館になるよ、きっと。入口で貸出カードがなければ
入れないシステムなので、ホームレスもいないし、あっ」
 「そうなると」と、いつ洗ったか覚えていない頭を掻きながら、僕は言った。
「俺は行けねぇか。居心地の悪い世の中だ。ま、いいさ、残った料理もらってくぜ」

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