第65回テーマ館「図書館」



図書館の本は、ばい菌うじゃうじゃ しのす [2007/05/20 05:13:37]


 大雨で利用者の少ない昼下がりの図書館で、男女の話し声が聞こえた。
 「図書館っていいわね」と女の声。
「読みたい本がただで読めるし。本屋で立ち読みしていたら、間違いなく追い払われる
けど、ここならどれだけ本を読んでいても、絶対文句言われないし」
 「無料貸本屋って批判もあるけどね」と男の声。
 「国民の教養を高め、大切な資料を保存するために、図書館は必要なのよ。
図書館を批判する人は、読みたい本を読みたいだけ、自由に買える金持ちだけなんじゃない」
 「でも本を読むなら、絶対買って読んだ方がいいよ」
 「えっ、どうして」
 「だって、図書館の本って、誰が触っているかわかんないだろ。汚くないか。
たとえば、よく指を舐めながら、ページをめくる人、いるし」
 「いるいる。ちょっとやめてよって感じだし」
 「それとかトイレ入っても、手洗わない人もいるし。ちょっとおしっこ
ひっかかった手で、本をさわるかと思うと」
 「えーっ、それ本当。きたなーい」
 「中にはトイレの個室に本を持ち込んで読んでる人もいるんだよ」
 「げっ、それって本当の話」
 「だって個室から図書館の本かかえて出てくる人、見たし。しかも手、
洗ってなかったな」
 「さいあくー」
 「それとかどんな病気かわからない人もいるし。ゴホゴホ咳しながら、本読んでる
し。痰が本にとんだりして」
 「うわー、図書館の本って、もしかしてばい菌、うじゃうじゃなんじゃない。
あたし、もう図書館の本にさわりたくなくなった」
 俺はついに我慢できなくなって、声の方に近づいていった。
 「すみません、お客様、図書館ではお静かにねがいます」
 「あ、悪い」「ごめんなさいね」
 謝ったのは、図書館の常連、かなり強烈な臭いを発している、
指が真っ黒に汚れた年配のホームレスのカップルだった。

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