第65回テーマ館「図書館」



図書館の秘密 芥七 [2007/05/21 01:00:49]


14年も前になるかなー、学校にあった図書館で一人の男子生徒が行方不明になったん
だ。
お昼休みに一人で図書館に行ったっきり、授業の時間になっても生徒は戻ってこなかっ
た。
それどころか、家にも帰らなかったし、翌日になって学校に来ることもなかった。
その生徒は素行も良かったし、かなり勉強も出来た。ついでに言うとスポーツ万能、容
姿端麗だ。
学校にしてみりゃ、お受験組み筆頭の生徒だったもんだから、校長から事務員さん、用
務員さんまで巻き込んで、右へ左へ大騒ぎ。
最初は、急に体調を崩して無断帰宅したのだ、なんて言われてたけど、もちろんそんな
子じゃなかったし。
事件に巻き込まれただの何だのって、騒がれてゴシップな連中も着たんだけど、結局見
つからなくって、事件(?)もそのまま有耶無耶になって、生徒も卒業と進級と新入と
が一巡して入れ替わって、そんで男子生徒のことは誰からも忘れ去られちゃった。

あれから14年も経つんだね。久しぶりに学校にやってきた校舎は古びてたけど、やっ
ぱり懐かしくって仕方なかったんだ。
だから、私の足が自然とあんなことがあった図書館に向いたのも別段不思議なことじゃ
ない。ごくごく自然な流れだ。
この校舎はあと少しで壊される。3年前に学校が廃校になったんだ。
開けっ放しにされたドアを潜って、立ち止まる。古びた円卓と、円卓を囲うように並ん
だ丸椅子。
書棚の並びもひとつも変わっていない。
ああ、すごく懐かしいな。ボーっとしながら私は図書館をさ迷い歩く。
書棚に収まったままの図書をかき分けて歩き、そして、その袋小路に行き当たった。
・・・行き当たった、先には書棚がでんと鎮座している。
その棚にもたれかかる様、私は額を押し当てた。

思い出す、生まれて初めて出来た好きな人を。

照れ笑い、子供過ぎた自分を。

かみ締める、無残に終わった初恋を。

・・・・・、染み出した憎悪を。

ああ、もう14年も経ってしまったのだ。
何事も、本当になにごともなく≠P4年も。
「ごめんね、もうすぐ出してあげるからね」
・・・早く出して―そう返事をするように書棚が軽くゆれた。
私は棚からそっと離れて、そのまま図書館を、学校を後にした。
校門を潜り空を仰ぐ。
ああ、今日はなんていい天気なんだろうか。
初恋を乗り越えてはじめてみる世界は清々しく、どこか生まれ変わったような気分だっ
た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−
解体された学校の校舎。
その図書館だった瓦礫の山から、からからに乾いた木乃伊が見つかるのは1年も先のこ
とだった。

戻る