第60回テーマ館「嘘」



嘘しか言えないお姫様の話 hiro [2006/02/16 21:28:53]

 昔々、あるところに嘘しか言えないお姫様がいました。
 お姫様は何も悪いことはしていないのですが、、きまぐれな魔女によって「嘘しか言え
ない呪い」をかけられてしまったのです。呪いをかけた理由なんてものはきっと魔女自身
にもわからないでしょう。魔女というのはそういうものですし、魔女はいつだってきまぐ
れなのですから。(だって皆さん想像してみて下さい。魔女がきまぐれでなかったら、い
ったい誰がきまぐれになればいいというのでしょう!)
 でも、お姫様は特に困ることはありませんでした。なぜって、お姫様も周りの人も皆呪
いのことを知っていたのですから、お姫様は自分の言いたいことと反対のことを言えばい
いだけなのです。例えばですが、、お腹がすけば「食欲がない」と言えばいいですし、眠
たければ「眠たくない」と、愛を告げたければ「あなたなんて好きじゃない」と言えば良
いのです。
 そうして美しく健やかに成長したお姫様は隣国の王子様と結婚しました。それは政略結
婚(意味がわからない人はお父さんかお母さんに聞いてみましょう)と言ってよいもので
したが、幸いなことに王子様はお姫様を心から愛してくれました。王子様はお姫様を世界
でたった一つの宝物のように大切に扱い、結婚生活は幸福に満ちたものでした。
 そんなある日、王宮を一人の魔法使いが訪れました。
 謁見の間に通された魔法使いは王子様に言いました。
「姫様の呪いの噂を聞いて参りました。私に任せていただければ魔女めにかけられた呪
い、完全に解いてみせましょう」
「ふむ、そなたは姫にかけられた呪いを解けるというのだな」
 王子様の言葉に魔法使いは誇らしげに答えました。
「恐れながら申し上げますが、姫の呪いを解くことが出来るのは、呪いをかけた魔女本人
を除いては、近隣の国では私以外にはいないでしょう」
 王子様は魔法使いの言葉に満足げに深く頷きました。
「なるほど、それは良い事を聞いた。実に――実に、素晴らしい」
 王子様は腰に刺した剣をすらりと抜き、魔法使いの首をはねました。そして床に転がっ
た魔法使いの首を見下ろして王子様は言いました。
「全く馬鹿な事を言う奴だ。呪いが解けてしまったら、いったいどうやって彼女の本心を
知ればいいというんだ」

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