第60回テーマ館「嘘」



荒井屋静佳はさりげなく しのす [2006/03/22 21:42:32]

 病室のベッドに美咲が横になっていた。
 その手を握りしめて雄一郎が椅子にすわっていた。
 「不治の病だとしても、僕の愛は永遠だから」
 雄一郎がそう言うと、美咲はボロボロと涙をこぼした。
 その時、ノックの音がしてドアが開いた。

 「ったく、ユウったらいつまで待たせんだよ」
 セーラー服姿の美少女が病室にどかどかと入ってきた。
 彼女はベッドに寝ている美咲を一瞥すると
「ははあん、こいつがあんたの言ってた女ね」
 美咲は問いかけるようなまなざしを雄一郎に送っている。
 雄一郎も当惑したような顔をしている。
「こいつが死ねば、静佳と晴れて恋人同志になれるね、ってホテルフェニックスで
夜明けのコーヒー飲みながら言ったじゃない。まだ死んでないんだ」
 「ゆ、雄一郎さん、この娘は一体…」
 「いや、僕も何がなんだか…」
 少女は美咲に人差し指を突きつけると言った。
 「あんた、ユウのお荷物なんだよ、早くあの世へ行っちまいな」
 雄一郎はベッドの傍らで絶句していた。
 美咲はブルブルっと怒りで震えると、ベッドの上で身体を起こした。
 「あんたみたいな小娘なんかに、負けないわよ。絶対死ぬもんですか。
私と雄一郎さんの愛は永遠なんだから」

 「まだあれだけ怒れるなら、病気なんてふっとぶよ」
 病室の外で荒井屋静佳はにっこり笑った。
「馬屋貸のおばさんから頼まれてさ。ま、人肌脱いだってわけ」
 荒井屋も馬屋貸も嘘吐五家と言われる真性嘘つきの家系だった。
 「逆療法ってやつだね。ま、礼言っておくよ。びっくりしたけど」と馬屋貸雄一郎。
 「でも雄一郎さん、ほんとは私、あなたのこと、子どもの時から好きだったんだから」
と荒井屋静佳はさりげなく言った。
 「えっ」
 「なんてことは、まったくなし。嘘ぴょーん」
 荒井屋静佳は言い放つと、大爆笑した。

 THE END

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