第34回テーマ館「機械仕掛けの…/人造人間(アンドロイド)」


てんねんじんぞう2 餅 ありさ [2000/07/05 00:18:48]

 急に、由紀がおかしくなった。何故か自分は未来を知っているなどと言い出したのだ。
いわく、1600年後にこの国を二分する大決戦がある、710年後に遷都する……などなど。
 もしや、あり得ないはずのバグがあったのだろうか? 莫大な予算と時間をかけて完璧に行わ
れたはずのデバッグ。なのに……。
 放って置けなくなったあたしは、祝日で誰もどこも休みのなか、どうにか専門家をひっつかま
え、彼女を診てもらうことができた。但し、診察と修理には暫くかかるという。しかたなく、あ
たしは彼女を預け、
家に帰った。
 あり得ないはずのトラブルが致命的でないことを祈りながら、あたしは不安な日々を送った。
万が一、再インストールなどということになれば、彼女は元の彼女では無くなってしまうのだか
ら。
 しかし、彼女と同型のほかのロボットが、同じような症状をきたしたというニュースは全く流
れなかった。彼女だけが、この不幸な病にかかってしまったというのか? ますますあたし
 そうして、あたしにとって重苦しい5日間をすぎると、大事無いという報告が入り、その翌日
には、由紀はすっかり元気になって帰ってきた。修理のついでに、無償で一部ハードウェアのバ
ージョンアップまでしてもらったという。
 報告によると、さきの症状は、先行試験型である由紀だけの症状だという。なんでも、当初
彼女は、去年の同型機発売までのお役目の予定で開発されたらしい。それが、テスト終了後
すぐに「殺して」しまうのはあまりに残酷だからと改修され、ついには同型機以上の性能と
寿命を持つ機体に仕上がったのだという。
 あたしと由紀の出会いはその後、彼女がそのまま生まれ育った研究所に住み着いて、
もったりと暮らし始めた頃だった。
 ただ、さきの改修において、1点だけ見落とされていたことがあり、それが原因でさきの
病が発症したのだという。
 年内で役目を終えるはずだった彼女だけは、メモリ節約のため内部カレンダーが8けた
だったのだという。
 記念すべき10000年の正月早々、間抜けな話である。