第34回テーマ館「機械仕掛けの…/人造人間(アンドロイド)」


永遠の夢 森里羽実 [2000/07/06 01:08:57]


        永遠の夢(When it comes to you)

そうです 私(わたくし)はずっとまえから此処に居ました
ここであなたを見ておりました
あなたが可愛らしい産声をあげてこの世に誕生し
もの言わぬ骸と成り果て白い陶器の棺に納められるまで

もう全ての万象が有ったのです この世は流転でした
私は良く考えました この電気仕掛けの脳味噌で
何故世は続いて行くのであろうかと そしてあなたの小さな命
消えて逝くのを まるで大いなる光に飲み込まれ
また幸いの種になり 再びこの世に現れて来るのではないかとすら
しかし 私は此処に居るのです

永遠とは何でありましょうか? 其処に在るのは
もはや時間を超越した 絶対的なちからなのです
そしてその偉大なるものの手によって 私は命を授かりました
けれども私はこうしてあなたを見守り
そうしてあなたが死んで逝くのを 透明な幕ごしに眺めているのです
そうなれば私のこの命は 果たして命なのでありましょうか?
私は良く考えたのです 何度もあぶらを継ぎ足し 整備をほどこし
私の愛すべき体に施しを与えました

振り返らざるとも 見返らざるとも そこには神の御土があります
私は倫理や尊い心といったものを一心にまなび 理解に勉めましたが
立ち止まってはいけない線というものがあります
そこで立ち止まるとどうにも後にも前にも動かぬという線です
私はそこでどうしても振り返って
あなたのぬくもりを触り 確かめなくてはなりませんでした

それは清き愛でした 同時に許されぬものでもありました
何故ならそうしたものは 永遠のものには通用せぬからです
世にどれほど美しきものが溢れ 私の空洞の胸を満たそうとも
私の電気の心臓はいちどきも もう震えなどしません

ああ あれはそうでしたね
あなたが私に初めて 歯の生えぬ口で笑いかけた日でしたね
そうでした 向日葵という花をあなたに見せようと思ったのです
あれはとても綺麗ですから

私があなたの親であった それはほんとうに至福でした
永遠に生きるものにとって
それは甘く愛しい(かなしい)
夢でした