第34回テーマ館「機械仕掛けの…/人造人間(アンドロイド)」


花は散らない 猫 [2000/08/01 01:05:07]

「目を覚ませ。」
(誰ですか?)
「今度こそ失敗しないでくれっ!」
(この人は・・・誰ですか?)
「目が・・・開いた!!アース!アース!!」
(私の瞳を見つめているこの人は誰?)
「私・・・?誰?Who am I?」
少女の肩を掴んでいる、1人の四十過ぎに見える男は「しまった」という顔をした。
「あなたは誰?Who are you?」
「しまった!まだロードしていなかったか!!」
男はそう言うと左手で髪をかきむしりながらパソコンに向かい、何やら高速で文章を打ち始め
た。その目つきは焦りと緊張、そして喜びに満ちていた。
その男の名は岩瀬 雄飛(いわせ ゆうひ)老け顔の彼だが、まだ32である。
そしてその少女はその彼によって作られたアンドロイドである。
その彼女にまだ意思はない。
「Who are you?Who are you?Who are you?」
彼女は綺麗な声でひたすら問い続けた。
研究所の中に響くその声は、まるで天使のようだった。
そして岩瀬はその声を聞く度にどんどん焦っていった。そしてそれは一時間近く続いた。
そして何とか文章を打ち終えた青すぐに休むことなくすぐに引き出しからCDを取り出し、パソ
コンの中に入れた。そしてロード<road>と言う画面に表示された文字をクリックした。
すると少女の瞳に異変が起きた。
さっきまで光が入っていなかった瞳に、眩しいぐらいの輝きが出たのだ。
それはまるで、枯れかけた花が水を吸収したようなものだった。
すると急に少女はベットから起きあがり、岩瀬の所まで行った。
「私ハ、アース<Earth>コンニチハ、初メマシテ。オ父サン。」
少女は人間とは思えないような綺麗な声を出してきた。
そしてそれは日本人の発音ではなかった。
「アース。初めまして。」
岩瀬はにっこり笑うとその少女を抱きしめた。

それからというもの、毎日が楽しい日々であった。
アースは元々ある人間の脳をそのまま埋め込んだようなものだから、人間に一番近いアンドロイ
ドである。
「オ父サン!コレハ何?」
もちろんまだ知らないこともたくさんある。
「それは、彼岸花だよ。」
岩瀬はとても優しい口調で言う。
「ヒガンバナ?」
「そう、それはね、人の死に捧げるような花なんだよ。」
「死?」
すると少女急にその言葉に反応した。
「どうした?」
「イイエ、何デモナイデス、オ父サン。」
少女の思いつめた顔を見ても、岩瀬はさほど心配はしなかった。
「アース。大地、地球という意味だよ。」
急に岩瀬は少女の名前のことについて語りだした。
「大地?地球?」
「それで今はアース、お前の名前と同じ花を作ってるんだよ。」
「私ト?」
「咲いたら一緒に育てような、お前の花を。」
岩瀬はよくわかっていない顔をしている少女の頭を優しく撫でた。
「ワカリマセン、意味ガワカリマセン。」
不思議そうに岩瀬を見つめる少女。
(ま、こういうエラーも在るな。)
岩瀬は心なしかそんなことを思った。
◆ ◆ ◆ ◆
お父さんは一緒に暮らそうって言ったけど、いけないんじゃないかな?
死とはなんなんだろう。
「おい!アンドロイドを作ったんだろ!渡せ!!」
急に黒いスーツを着た人が一杯入ってきた。
「いやだ!アースは渡さない!!」
お父さんはとっても怖い顔をしてる。
誰この人達?
「お前等なんかにはわかさない!」
お父さんはそう言ってそこにあったパソコンのコードをちぎって、近くにあった花瓶の水をコー
ドと怖い人たちに掛けた。
そしたら急にびりびりって音がした。
怖い人たちが倒れている間にお父さんは私の手を引っ張って崖に連れていった。
「アース、君だけでも生きてくれ!」
汗を一杯かいてるお父さん。真剣な目で私を見つめる。
だけどダメなの。
「オ父サンハ人間。私ハ違ウ。」
私はお父さんの顔を撫でる。
「オ父サンハ心ノ何処カデ私ヲ人間トシテ見てテイナカッタ。」
「ち、ちがう!」
「私ガイタラ、オ父サン駄目ニナッチャウ。」
私の目から涙がこぼれた。
一緒にいたいけど、お父さんとは違うから。私は造られた。
「お父さん。愛しています。でも、私は違う。」
私の声はお父さん達のように人間らしくなっていた。
「お父さん。さようなら。私は消えます。」
死にますと言いたかったけど、私の命は造られただけ。
「お前無しじゃ、生きていけない。」
お父さんは私にすがる。その奥ではあの怖い人がいた。
「でも、花もただでは散らない。」
私はお父さんをはねのけると、その怖い人たちの胸の中へ潜り込んだ。
「あっ・・・。」
私の手にはナイフがあった。してはいけないとお父さんから教わったこと。
でも、お父さんを守るには。
私は無我夢中で怖い人たちへナイフを突きつけた。
でも、その変わりに自分の体は段々と崩れていく。
攻撃を仕掛けるために、相手の攻撃を受けなくちゃいけない。
私の体はとんでもない方向へとむいたりした。
すべてがやっと終わったのは時には、もう意識が消えかかっていた。
「お父さん。」
優しくお父さんは立てない私を抱きしめる。
お父さんの温もりが温かい。
「お父さん。私アースの花じゃなくて、悲しい花になる。人の死の周りにいっぱい咲く花にな
る。だからね、お父さん。私は一生散らない。人の死で私の生を得る。だから、忘れないで。私
の事。誰も好きにならないで・・・私はお父さんを愛してるから・・・・・・・・。」
「アース・・・。」
◆ ◆ ◆ ◆
1人の哀れな男は、もう動くことのない人形を抱きしめる。
しかしその男は愛のことも判らない人形のことを、どこか人形と認めていた。
「コレはただの人形だ・・・・。」
そう吐き捨てると男はその頭だけをナイフで切り取り、その残りを崖から突き落とした。
「新しいのを造らないと。又失敗したよアース。」
その哀れな男は顔だけとなった人形を撫で始めた。
「花は散らないよ。永遠に。僕が生き返らせてあげる。」
足下にある彼岸花を哀れな男は気にすることもなく踏みつけた。
そう、花は散らない。何故ならその花は哀れな男によって作られた、人形に過ぎないからだ。