『テーマ館』 第32回テーマ「狂気」
正気 はなぶさ 2000/02/29 23:26:52
テレビを見て笑っているのに、ふと見た鏡に泣いている自分が映った。なんて悲しい
顔をしているのだろう。昨日の夜は泣いているつもりで、笑っていたよ。君との不思
議な別れの後で。それは永遠の別れだった。
君と二人の時には全てが素肌で感じられたのに、今では全ての事が薄くて固い皮膜に
よって隔てられたような、そんな風にしか感じられない。それなら前頭葉から頭の中
心に住むという私の心を閉じましょう。意外に簡単で目眩がしてくる。
左右も前後もわからなくなり、人を殴っても自分の手が少し痛む程度にしか感じなれ
なくなってくる。私の前にいる人なんて、私の意識が作り出した幻影で、何をしても
誰も私を裁けやしないだろう。私は想像で人を殺すのと同じくらいのことしか感じて
やいないのだから。
突然後ろから金属製のパイプで殴られて、頭のてっぺんが鈍く揺れた。血が流れて目
の前を赤く染めていく。もう一度殴ってみろと思いつつ振り向くと、今度は額を殴ら
れた。前頭葉で眠っていた私の心は、眠ったまま死んだらしい。私は完全に歯止めを
無くしてしまうらしい。目の前が真っ赤になって、そう思う。
私のような人は多いと、心を無くして気が付いた。あなたも一度無くしてみればいい。
きっと私の気持ちがわかるだろう。全てが一瞬の思い付きで来まる爽快さ、明日を憂
慮しない快適さ、気を使わないで相手に欲望をぶつける痛快さ。きっと私は正気に戻
ったのだろう。