『テーマ館』 第32回テーマ「狂気」


狂気の目覚め Lepi 2000/04/09 08:59:09


      ある朝、目が覚めると俺はゴリラになっていた。

      パニックになって外へ飛び出した俺の目には、
      仲間たちがニホンザルやチンパンジーの姿で
      うつっていた。
      俺は完全にいかれてしまったらしい。
      わめきちらし、暴れだした俺の前にマントヒヒの
      警備員が現れ、病院へと連れて行かれた。
      「あんただってオランウータンに見えるんだ」
      俺を診察した精神科医に、そう言い放ってやった。
      そうして俺は、精神科の病棟に収容された。

          *      *      *

      「どうですか、彼の容態は?」
      「とりあえずはおとなしくなったようですね」
      「でもどうしてこんな病気に……」
      「最近多いんですよ。自分はニンゲンだ、と信じ込んでしまう
       病気がね。でも彼の場合は、ニンゲンであるはずなのに
       自分がゴリラの姿であることがおかしいと感じる、という
       二重の狂気にとらわれているようです」
      「ニンゲンって大昔に絶滅した種族のことでしょう?」
      「そうです。でも現在の私たちの文明は、もともとはそのニンゲンが
       作り上げたものですからね。ニンゲンの手によってジャングルから
       追い立てられた私たちの祖先が、環境破壊と戦争でニンゲンが自滅
       した後、その文明の遺産を引き継いだと言われてますが……。
       そのニンゲンの遺産の中で生きていると、彼のような狂気が生まれる
       のもやむを得ないのかもしれませんな。これもまた、人類の遺産
       なんでしょうかね」